【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】今年の交流戦を戦い終え、オリックス・杉本裕太郎外野手(31)が首位打者に輝いた。18試合で69打数27安打、打率3割9分1厘。それまでの絶不調を払拭した印象を残した。

 交流戦開始前の5月24日時点で打率は1割5分9厘と低迷。昨季のパ・リーグ本塁打王もたまらず〝師匠〟に泣きつくほど、泥沼にハマっていた。

 その師匠とは、元MLBエクスポズ傘下3Aオタワなどで活躍した根鈴雄次氏(48)。バットをアッパー気味に出す独特な打法を、ラオウこと杉本に伝授した打撃理論に詳しいバットマンだ。

 根鈴氏の携帯が鳴ったのは4月後半のことだった。「もう、本当に『助けてください』みたいな勢いでしたね」と振り返るほど、ラオウの状況は深刻だった。

 あせればあせるほど力を発揮できないのがバッティングの難しさ。技術的な問題は昨季のタイトルという結果を見れば解決済みであることは証明できている。だとすれば、原因はどこに。それはメンタルだと当時の根鈴氏は分析していた。

「昨年は『今年ダメなら終わり』くらいの気持ちで新たな打法に取り組んだはず。でも、本塁打王として迎えた今季は、最初の志が少し薄れていたのでは。本塁打を追いかける気持ちよりも、まずは何が何でも出塁、安打だし、初心を思い出してほしかったですね」

 根鈴氏は杉本と常時帯同できるわけではない。やるせない気持ちも募ったはずだ。リモートで技術指導はできてもチームの一員ではないため、現場を知らずに無責任な発言もできないというジレンマもあった。

 LINEなどのやり取りで助言は送るものの、その場でベンチから声をかけられない。シーズン序盤の杉本の打席を映像で観察しつつ「去年と比べて荒かった。追い込まれてからの粘っこさも無かった」と不安を募らせていた。

「相手が厳しい攻めをするまでもなく、高め直球をファウル、外スラ、フォークでフィニッシュみたいな。ハマってた時期は簡単な打者になってました。でも、去年のラオウさんはその手前で真っすぐを簡単に投げさせない状態のバッターだったんです」

 初心に帰り、まず出塁、ヒットと結果を積み重ねた上で感覚を取り戻しながら状況を打破する。それが復調への近道。悩むラオウを見守り続けた根鈴氏。杉本の交流戦首位打者を最も喜ぶ一人かもしれない。

☆ようじ・ひでき 1973年生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、ヤクルト、西武、近鉄、阪神、オリックスと番記者を歴任。2013年からフリー。著書は「阪神タイガースのすべらない話」(フォレスト出版)。21年4月にユーチューブ「楊枝秀基のYO―チャンネル!」を開設。