【広瀬真徳 球界こぼれ話】ここ最近、先発投手が少ない球数で完封勝利を収める試合が増えている。ロッテ・佐々木朗希(20)が10日のオリックス戦で9回105球の完全試合を成し遂げた歴史的一戦もそうだが、16日にはDeNA・上茶谷大河(25)がヤクルト戦で91球5安打無失点の好投。球数100球未満で完封する“マダックス”を達成した。その余韻が残る19日にも日本ハムの左腕・加藤貴之(29)が楽天相手に上茶谷を上回る90球(3安打無失点)での完封を演じた。

 春先は気温が低い中で試合を行うことが多い。特に屋外試合は気温の影響を受けるため、打者に比べ仕上がりが早く常に体を動かす投手が有利と言われる。楽天・石井監督も19日に昨今の「投高打低」について言及。「この時期はそうだと思います。だんだん夏場になって反対(打高投低)になってくる状況になるのかなと。でも今年は顕著に差が出ていると思います」と分析していた。この見立てに異論はない。

 だが、昨今の球数の少ない完封劇の急増ぶりはその理由だけではない。「ムダなボール球を投げない」というバッテリーの攻め方の変化も寄与しているのではないか。

 一昔前の世代であれば投手が打者を2球で2ストライクに追い込むと、バッテリーは意図的に1球ボールで外す傾向があった。「見せ球」を使うことにより投手の自信のある決め球で打者を確実に仕留める。これが定石の攻めだった。

 だが、いつごろからだろうか。見せ球を使わず常にストライクゾーンで勝負するスタイルが定着してきた感がある。2試合連続の圧巻投球を見せた佐々木朗をはじめ、前出の日本ハム・加藤の投球も見せ球は皆無だった。打者の姿勢を崩したり目線を変えたりするのもあくまでストライクゾーン内で対応していた。こうしたバッテリーの攻め方こそが昨今の投手の球数減に貢献。最終的に先発が長いイニングを投げ完封劇を呼び起こす一因になっていると言える。

 昨季新人投手として9勝を挙げ、今季さらなる飛躍を狙う楽天の左腕・早川も21日、無安打試合や100球未満による先発投手の好投が続いている傾向を踏まえ「(自分自身も)理想とするのはやはり球数少なく長いイニング投げることだと思います。“マダックス”が理想? そうですね」と白星を導く条件として球数を極力抑える必要性を語っていた。先発投手はシーズンを通してローテーションを守るためにも省エネ投法は不可欠。この流れが続く限り今後も鮮やかな完封劇が見られるはずだ。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心にゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。