【久保康生 魔改造の手腕(17)】私自身、若い時代から海外での野球経験を積ませてもらいました。短い期間の野球留学という形でしたが、多感な時期に多くのものを吸収することができました。

 野球だけではなく、生活面でも普段とは違うことを学ぶわけです。環境への適応というのでしょうか。

 そうすると、私の立場が投手コーチに変わった場合、助っ人選手への接し方に思いやりが加わるのは当然の結果でした。

 自国でそれなりの経験と実績を残した選手もいます。また、メジャーから都落ちのようにNPBに流れてきたような選手も存在します。

 それらの選手を日本のプロ野球の目線で、技術的にただできる、できないの判断でひとくくりにしてしまうと立つ瀬がないんですよ。球が速いだけでノーコンだからダメだとか、あいつはクイックができないとかで片付けては身も蓋もありません。

 同じ人間なんで、痛みは一緒なんですよ。苦労するところは一緒で、やっぱり人間なんでね。痛いときは痛い顔してるし、分からない時は分からない顔をしています。国籍、文化は違えど人間のしぐさには共通なところが多くあります。

 彼らがどういうことに悩み、引っかかってるんだろうか。人として思いやる部分が一番じゃないかなと思うんですよ。親身にね。これはもちろん母国を問わずですがね。

 ドラフトされて入団してくる大切な選手たちにも、助っ人にも上からではなく目線を合わせて接することが基本です。また、どんな大物選手であっても「ダメなものはダメだ」と指摘できなければなりません。

 私は選手たちにはまず、ピッチングというものの原理原則を理解してもらいます。目指すところはどこか、そこを理解してもらいます。

 ボールにも縫い目にもこう握ればこう回転するというような定義があります。まず、しっかり定義を教えてあげることから始めます。

 スライダーひとつを取っても、誰が投げても同じスライダーではなく、独特のものがあります。縫い目の位置や握る場所によっていろいろなボールが出るわけです。

 基本的には物理の法則です。ボールは高いところから落ちていきます。その自然な物理の法則とボールの関係を選手たちに伝えていきます。

 投げたボールは空気抵抗を受けながら進み、回転によってボールの後ろに気流の乱れが起こります。どうすれば、打者から見て打ちにくい変化をするのか。自分が投げやすく、打者が打ちにくい変化をしてくれればいいわけです。

 結果、相手に嫌な球を想像させられればいい。投手はその人それぞれに、体格も違い、関節があり、筋肉もあり、腕や指の長さも違います。だから、同じイメージで変化球を投げても、どんなボールが出るか分かりません。ある意味、楽しみでもあります。

 同じ握りでもいいし、同じ握りじゃなくてもいい。それは独自の握りの中で、ツーシームでスライダー投げるのか、フォーシームでスライダーを投げるのか、どちらか自分が選んでいってバッターとタイミングが合わなければそれでいいんです。

 発想は既成概念にとらわれないということ。既成概念をまず疑ってかかれっていうところを常に持ってほしい。でも、物理の定義には理(ことわり)がある。それも分かっておいてほしいです。

 こういった話は活字では伝わりにくいですね。なかなか言葉で表現することが難しいですが、次回も「野球の物理」についてお話しさせていただきます。

 ☆くぼ・やすお 1958年4月8日、福岡県生まれ。柳川商高では2年の選抜、3年の夏に甲子園を経験。76年近鉄のドラフト1位でプロ入りした。80年にプロ初勝利を挙げるなど8勝3セーブでリーグ優勝に貢献。82年は自己最多の12勝をマーク。88年途中に阪神へ移籍。96年、近鉄に復帰し97年限りで現役引退。その後は近鉄、阪神、ソフトバンク、韓国・斗山で投手コーチを務めた。元MLBの大塚晶文、岩隈久志らを育成した手腕は球界では評判。現在は大和高田クラブのアドバイザーを務める。NPB通算71勝62敗30セーブ、防御率4.32。