強さには理由がある。ソフトバンクの宮崎春季キャンプで、チームとしての意識の高さを象徴するシーンがあった。第3クールのある日の昼下がり、若手中心のB組練習を視察していた王貞治球団会長(80)が驚きの行動に出たのだ。

 視線の先には主に背番号3桁の育成野手。王会長は目の前で振り込む若鷹全員に声をかけると、おもむろにズボンのポケットから自前のスマートフォンを取り出し、胸の高さあたりにセット。約30秒ほど動画を撮影し、すぐさま選手の横に移動して動画を再生しながら助言を送った。さらに王会長は練習の補助を行っていた編成関係者や担当コーチを呼び寄せ、指摘した内容をその場で共有した。

 親会社が通信大手のソフトバンクは早くから野球の現場でもIT化を推進し、他球団に先駆けて一、二、三軍の監督、コーチらの意見交換や情報共有は携帯端末を通して行ってきた。年齢に関係なく、最新の通信機器を使いこなせなければ仕事にならず、昨年5月で80歳の大台に乗った王会長もタブレットを愛用するなど“いける口”だ。

 とかく「資金力」を話題にされがちだが、ソフトバンクの強さは「育成力」にある。エース・千賀に正捕手・甲斐、昨年の盗塁王・周東と日本代表クラスにまで成長した育成出身選手は枚挙にいとまがない。かねて王会長は「育成上がりの人たちが活躍しているのを(今の育成選手は)見ている。今まで一緒にやっていた選手が(ペイペイ)ドームで活躍しているとなると『よーし、次は俺の番だ』となる。そういった意味では、一軍の試合を近く感じているように思う」とも語っていた。

 未来の常勝軍団のピースとなり得る原石たちに「王の目」はしっかりと届いている。育成畑に足繁く通い、種をまき、水をやる。さぞ収穫の時が楽しみだろう。