「守備と走塁にスランプなし」僕に言わせれば嘘

2020年06月24日 11時00分

1989年までは高橋(右)と二遊間を組んだ

【正田耕三「野球の構造」(34)】よく野球界では「守備と走塁にはスランプがない」と言われますが、僕に言わせればうそです。打撃のそれと同様に、守備や走塁でもどうしていいのか分からなくなることがあるのです。昨秋から年末まで当コーナーで連載していた元日本ハムの田中幸雄くんは送球イップスに悩んでいたという話を書いていましたが、これもスランプの一つと言えるでしょう。

 僕が守備に関して頭の中が大混乱したのは入団1年目の1985年でした。それまで高校や社会人野球だけでなく、84年ロサンゼルス五輪を含めた国際試合でも金属バットが使用されていたので、速い打球には慣れているつもりでした。しかし、木製バットを使用するプロ野球の打球速度は今まで感じたことのないようなものだったのです。

 待って処理できると思った打球に差し込まれたり、追いつけると思った打球が外野に抜けていったり…。そうなると、どうしていいのか分からなくなります。前に出るべきか、待つべきか。一瞬で判断しなければならないのに、考えてしまうからポロポロとやってしまう。そこそこできると思っていた自信はあっという間に砕け散りました。

 同じチームで言えば、遊撃でバリバリのレギュラーだった高橋慶彦さんの守備には無駄な動きがないし、力強さがある。他球団に目を向けると、山下大輔さんは派手さこそありませんでしたが、捕球してからが速い。それに比べて自分は…。自信を失いかけていたプロ2年目に目の覚めるようなアドバイスをくださったのが、同年から一軍の守備走塁コーチとなった三村敏之さんでした。

「何を難しく考えとるんや! 守備なんてグラブで打球を捕って、投げるだけやないか!」

 確かにそうなんです。「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さんが打撃について「ス~って来た球をパンと打つ」とおっしゃるように、極論すれば打撃も守備もシンプルなものです。僕がそう考えられなかったのは、それまでに習ってきた「守備の基本」が頭の中にあったからでした。

 打球を待つ際は腰を落とし、爪先を上げる。打球は正面に入って捕球する――。でも、それらを実行しようとすると、実際には間に合わない。プロとして練習量が足りないのだろうと考えた僕は、三村さんに特守をお願いしました。記憶違いでなければ86年の5月ごろだったと思います。

 そのときの答えが「キャンプでどれだけノックを受けたんだ! 今さらやっても一緒よね」という言葉と、前述の「難しく考えるな」とのアドバイスでした。僕に足りなかったのは練習量ではなく、発想の転換だったのです。

 ☆しょうだ・こうぞう 1962年1月2日生まれ。和歌山県和歌山市出身。市立和歌山商業(現市立和歌山)から社会人の新日鉄広畑(現日本製鉄広畑)に進み、84年ロサンゼルス五輪で金メダル獲得。同年のドラフト2位で広島入団。85年秋から両打ちに転向する。86年に二塁のレギュラーに定着し、リーグVに貢献。87、88年に2年連続で首位打者、89年は盗塁王に輝く。87年から5年連続でゴールデン・グラブ賞を受賞。98年に引退後は広島、近鉄、阪神、オリックスほか韓国プロ野球でもコーチを務めた。現役時代の通算成績は1565試合で1546安打、146盗塁、打率2割8分7厘。

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