1年越しでかなった海外武者修行で心を磨く。米領プエルトリコで開催されるウインターリーグ(WL)に派遣されるソフトバンク3年目の田中正義投手(25)が7日、派遣先のヒガンテス・デ・カロリナに合流するため福岡空港から出発。かつてのドラフト5球団競合右腕は「僕に足りないのはメンタル。自分を変えるチャンス」と真正面から弱点と向き合い、殻を破るべく異国の地で研さんを積む。

 衣食住すべてで進化のきっかけをつかもうと目の色を変えて旅立った。田中は昨年からプエルトリコWLへの派遣を望んでいた。「言葉も通じない。生活スタイルも食文化も違う。野球観も違う。生活がかかったハングリーな環境でプレーする選手に囲まれて野球をやる。これまでにない環境に身を置くことで“変われる”かもしれない」。プロ入り後に痛感した自身の“弱さ”を克服するきっかけをつかみたいとの思いを昨秋から抱いていた。

 今季も一軍の壁にぶち当たった。超えられない理由は分かっている。「今の僕は、重圧のかかる場面やピンチになればなるほどパフォーマンスを発揮できない。勝負どころでの気持ちの弱さを痛感した」。

 期待に応えられないまま3年目のシーズンが終わった。いまだプロで勝てず、大器の片りんすら見せられていない。「大学までは力で抑えられていたので(メンタル面の)弱さがクローズアップされなかっただけ」。1年目は故障に泣き、2年目にベールを脱いだが、10試合に登板して防御率8・56。今季も中継ぎでわずか1試合の起用に終わった。「心技体というけど、僕には(弱い)心を補えるほどの技術はない。ないのなら弱さを克服するしかない。でなければ僕の野球人生は終わってしまう」。分かっていても変われなかった過去を受け止めて、衣食住から劇的変化を求めた。

 待望していた約2か月の海外武者修行。短髪が基本スタイルの田中は、伸びた前髪をかき上げて取材に応じた。「髪はプエルトリコで切ります。向こうで今、流行っている髪形にしてくださいって、現地の美容師さんにお願いするつもりです。似合わなくても髪はすぐ伸びますから」。不測の事態に備え、白米5キロとふりかけを持参するが、完食するつもりはない。「できるだけ向こうの生活文化や食文化に触れるつもりです。不自由な部分もあると思うけど、そういうことも経験して強さをつけて帰ってきたい」。

 今季は二軍で25試合に登板して防御率1・80の数字を残し、飛躍の予感は漂う。だが、手応えや来季の抱負については「語れるものはない。説得力もない」と言う。昨年プエルトリコWLに派遣された高橋純、周東が今季大ブレーク。過去には岩崎、柳田、東浜も同WLを経験して飛躍のきっかけをつかんだ。

 派遣先のカロリナでは先発として起用される予定。「真っすぐの強さとコントロール、フォークの精度を磨いてきます。でも一番は…」。異国の地で心を鍛え、来季こそ一軍の強打者たちがおじけづくような剛速球を投げ込む。