レッズのカイル・ファーマー捕手 左上腕のタトゥー「Second Chance」に込められた友への思い

2020年01月25日 11時00分

投手デビューも果たしたファーマー(ロイター=USA TODAY Sports)

【元局アナ青池奈津子のメジャーオフ通信=カイル・ファーマー捕手(レッズ)】「Second Chance」。ちょうど半袖の裾からのぞかせるように左上腕の脇側に刻まれたタトゥーの文字に秘められた、友人チャンス・ヴィーゼーさんのストーリーを聞かせてほしいと頼むと、一瞬で輝くような笑顔になったカイル・ファーマーは「書いてくれるのかい? 最高。何でも聞いて」と、試合前の準備の手を止めて全身をこちらに向けてくれた。

「チャンスとは出会った時からまるで旧知の仲みたいだった。寮の部屋が隣同士で、トレーニングのために毎朝同じ時間に起きてリビングで顔を合わせていたし、ちょうどチームで彼がセカンド、僕がショートのポジションを勝ち取ったところで、一緒にプレーしようって時だった。毎日そこにいたやつが、あの翌朝からいなくなったことにひどく衝撃を受けたよ」

 カイルの話す「あの」とは、2009年10月28日のこと。テスト明けで友人と飲みに出かけていて、いつもならチャンスさんも一緒に行くのだが、まだテストが残っていたため彼だけ別の場所で勉強をしていた。深夜近く、カイルの電話が鳴った。野球チームのヘッドコーチからだった。

「1回目を取り逃したらまた鳴って。出ると『チャンスが事故に遭った。すぐに病院に来てくれ』と。慌ててタクシーで病院に行ったんだけど、その晩は会えなくて…嫌な予感しかしなかった。翌日、確かクラスの後でまた病院に行ったんだ。部屋に入って眠っているチャンスの足を揺すったんだけど、反応がなくて…その瞬間に事態の大変さを理解したと思う」

 前夜10時ごろ、チャンスさんはスクーターに乗って寮に戻る途中、対向左折車と衝突し、脊椎を損傷。大学のD1リーグでプレーし、大リーガーになる夢に向かって必死に生きてきた青年は、一生車椅子生活を送らなければならなくなった。

「あんなに泣いたのは、人生で初めてだった」とカイル。「あの時、部屋に入って、2人きりで、僕はそこに座って…。なんて言っていいか分からなかった。あの状況で何を言ったらいいかなんて、誰にも分からないと思う。どうにもならない感情と涙があふれ出してきて思わず『ここに居られないよ』と言うと、目を覚ましたチャンスが『おいどこに行くんだよ。俺が泣いていないんだから、お前だって大丈夫だよ』って。それでも20分ぐらいで耐えきれなくなって、部屋を出て母に電話しながら大泣きしたんだ。『母さん、こんな時どうしたらいいんだろう』って。3時間は涙を止められなかった」

 事故後、程なくしてチームメートら数人と「Second Chance」のタトゥーを入れた。この中には、ドジャースでプレーするアレックス・ウッドもいる。タトゥーは少しでもチャンスさんの力になりたいという思いからだったが、当時、彼らは19歳。友人の助けになりたいと思う半面で、自分たちもその衝撃を乗り越えることに苦労していた。

「本当に本当につらく、きつかった。嫌でも車椅子が目に入ってしまうからね。一瞬にして何もかもが変わってしまうことがあるんだって、事故に遭うのが自分だった可能性だってあるんだって、必然的に人生の価値と向き合わされたから、人より早く大人になったんじゃないかなと思う。今でも、あんなにつらい経験は、大学1年生でするもんじゃないって思っている」

 前に進むきっかけをつくったのは、チャンスさんだった。「事故から10か月後、チャンスが僕らと一緒に暮らすために引っ越してきたんだ」
 =次回に続く=

 ☆カイル・ファーマー 1990年8月17日生まれ。29歳。ジョージア州アトランタ出身。183センチ、97キロ。右投げ右打ち。捕手、内野手。2013年のドラフト8巡目で指名されたドジャースに入団。17年7月30日のジャイアンツ戦でメジャーデビュー。初打席で逆転サヨナラ2点二塁打を放った。18年オフに計7人による大型トレードでレッズ移籍。ユーティリティープレーヤーとして欠かせない存在となり、19年は本職の捕手以外にも内野の全ポジションに就いた。同年8月8日のカブス戦ではメジャー初登板し、打者5人を無失点に抑えた。