令和の落語ブームといわれる今、改めて脚光を浴びているのが“近代落語の祖”初代三遊亭圓朝の怪談噺や人情噺。では、戦後の名人たちは圓朝作の落語をどのように語り継いできたのか。70年近くにわたって続くその名を冠した落語会「圓朝祭」のプロデューサーで、人間国宝の五代目柳家小さんのマネジャーを務めたこともある㈲ジュゲムスマイルズの大野善弘氏に“伝承秘話”と圓朝落語の魅力、さらには名作を演じてきた人気落語家たちの知られざるエピソードを明かしてもらった。
圓朝祭が始まったのは、初代三遊亭圓朝没後57年後となる1957年、約1000人収容する東横ホール(東京・渋谷区)で人気を博していた「東横落語会」の特別公演だった。東横落語会の初期メンバーは八代目桂文楽、五代目古今亭志ん生、六代目三遊亭圓生、三代目桂三木助、五代目柳家小さんという戦後の名人たち。5人は落語界に多大なる功績を残した初代三遊亭圓朝をしのび、圓朝忌(後の圓朝祭)をやろうと圓朝の命日がある夏の時期に毎年圓朝作の落語を演じていた。
85年、ホール閉館に伴い「東横落語会」の終了が決まった時「東横落語会は終わっても、圓朝祭は残しておこう」と言ったのが、小さんだった。
小さんが亡くなった2002年まで27年間、マネジャーを務めていた大野は当時を振り返る。「東横落語会が終了した年の圓朝祭メンバーは小さん師匠が決めたんですが、ある日突然『談志にも頼んでくれよ』って私に言ってきたんです。談志師匠は人気があるので、お客さんも喜ぶなと思いました。ただ、かつて師弟関係にあった2人は1983年にたもとを分かっていたんです。当時の落語協会会長は小さん師匠だったんですが、真打昇進試験で弟子が不合格になったことに納得できなかった談志師匠は落語協会を脱退して『落語立川流』を創設し、家元になっていました。なので小さん師匠からの頼みとはいえ、断られるかもしれないなと思いながら談志師匠にお願いしに行きました。そうしたら開口一番『いいよ!』と快諾してくれたんですよね」
こうして約700人収容のイイノホール(東京・千代田区)に場所を移して開催された圓朝祭は、六代目三遊亭圓橘、十代目柳家小三治、三代目三遊亭圓右、談志、五代目古今亭志ん朝、三代目三遊亭圓歌、小さんというそうそうたる顔ぶれで仕切り直すことになった。「談志師匠は落語ではなく漫談をやってくれたんですが、高座に上がった途端、放送禁止用語のオンパレードだったんです。正直頭を抱えたんですが、お客さんには大ウケでしたね(笑い)」
小さんの死から4年後となる06年、談志は再び圓朝祭に出演した。「談志師匠は『勧善懲悪じゃない噺だから好きなんだよな』と言って、圓朝作の『黄金餠(こがねもち)』をトリで演じてくれました。圓朝師匠に対しては小さん師匠も談志師匠もそれぞれ特別な思い入れがあったんですよね」
小さんから圓朝祭のすべてを任されるようになっていた大野は、昭和、平成、令和と圓朝祭を毎年夏の時期に開催し続けてきた。「圓朝祭の最多出演者は歌丸師匠です。特に圓朝作の長編落語には力を注ぎ『牡丹灯籠(ぼたんどうろう)』は6年にわたって演じ、『真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)』に至っては12年かけて演じてくれました。牡丹灯籠には足がないはずの幽霊が下駄を履いてカランコロンカランコロンと音を立てながら登場するシーンがあるんですが、歌丸師匠は下駄の音が入ったカセットテープを持ってきてくれたので、演出として高座で流したこともありました。晩年、酸素吸入器を使用しながら高座に上がって圓朝作を演じる姿は、私も胸が熱くなりました」
圓朝は怪談噺だけでなく、「芝浜」「文七元結(ぶんしちもっとい)」といった人情噺から海外の翻訳ものまで幅広く創作している。「例えば『死神』は、ドイツのグリム童話などにヒントを得て創作したり、『牡丹灯籠』は歌舞伎座で上演されて人気演目になったり、かつて国語の教科書にも採用されていた『塩原多助一代記(しおばらたすけいちだいき)』は明治天皇の御前で口演されています。まさに落語界を飛び出して、日本の芸能も巻き込むような希代の文化人だったんですよね」
69年目を迎えた今年の圓朝祭には人間国宝や文化功労者も出演する。「今年は圓朝作を得意とする人間国宝の五街道雲助師匠と、小さん師匠のお弟子さんで令和7年度の文化功労者に選ばれた柳家さん喬師匠が圓朝作を演じます。さらに柳家喬太郎師匠の新作落語、笑点でもおなじみの三遊亭好楽師匠の滑稽噺、ラジオパーソナリティーとしても活躍中の笑福亭鶴光師匠の上方落語等々、圓朝祭でなきゃ見られない多彩なプログラムになっています」
来年、圓朝祭は70周年を迎える。「圓朝師匠は新作落語を数多く創りながら、新しいことにもどんどん挑戦してきた人だから、圓朝祭は残しておこうと言った小さん師匠の遺志を引き継いだ私も、古き良き古典落語を後世に伝えつつ開拓の精神を持ち続けていこうと思っています。それこそが小さん師匠が残したかった圓朝祭だと思うんですよね」
今年は圓朝生誕187年。節目の生誕200年まであと13年となる。「13年後、私は99歳になっているので、どうなっているかは分かりませんが、これからもできる限りいろいろな落語を皆さんにお届けしたいですね」
【圓朝祭】今年は9月12日(土)と13日(日)に東京・中央会館銀座ブロッサムで開催(両日とも12~15時予定)。チケットは各プレイガイドで発売中。12日演目=雷門五郎「七度狐」、笑福亭鶴光「手水廻し」、入船亭扇遊「佃祭」、柳家喬太郎「社食の恩返し」、五街道雲助「圓朝作 真景累ヶ淵より 豊志賀」。13日演目=春風亭一蔵「熊の皮」、柳家花緑「目黒のさんま」、三遊亭好楽「紙屑屋」、立川談笑「堀の内」、柳家さん喬「圓朝作 福禄寿」。















