腸内フローラの状態を良好に保つためには、どのようなアプローチが有効なのだろうか。日常生活でのアドバイスと、近年大きな成果を上げている最新の腸内フローラ移植技術について専門家に尋ねた。 

健康な人の腸内フローラを移植できる
健康な人の腸内フローラを移植できる

【まずは食事、適度な運動と正しい生活習慣も】

 腸内環境を整える基本は多様な菌を育てる食生活である。伝統的な和食を中心とし、旬の野菜、米、大豆類や魚などの良質なたんぱく質、みそやしょうゆ、納豆、漬物といった発酵食品をバランス良く取り入れることを心がけてほしい。食物繊維は健康な人にとっては、腸内細菌の餌となって有益であるとされているが、ガスがたまりやすかったり、下痢や便秘を繰り返す場合は栄養の指導ができる消化器専門医の受診が推奨されている。

 また、見逃せないのが睡眠の質である。「食事に気をつけていても不調が続く人は、睡眠や運動不足が原因で菌のバランスを乱している可能性があります。腸内の多様な菌を育む正しい生活習慣ができているかどうかが、中高年の健康の分かれ道です」とアドバイスするのは、腸内フローラ移植技術を推進する研究開発ベンチャー・シンバイオシス社(大阪市都島区)の田中三紀子社長である。

【健康な人の腸内フローラを移植する最新治療法も】

 腸内フローラは病気を予防するためにも、また病気を治療するためにも活躍している。

 日々のケアだけでは改善が難しい難治性の不調に対し、健康な人の腸内細菌叢を移植してバランスを再構築する「腸内フローラ移植(便移植)」という手法が注目を集めている。再発性クロストリジオイデス・ディシル感染症や炎症性腸疾患などに効果があるとされる最新の治療法である。田中社長のシンバイオシス社は独自のナノバブル技術を用いて、患者さんが本来持っている腸内細菌を守りながらドナー由来の菌が定着しやすい環境を整える。

 特に注目されるのは自閉スペクトラム症に対して腸内フローラ移植が有効であることが判明したことだ。自閉スペクトラム症とは、対人関係が苦手だったり大きな音や強い光を避けたりする傾向が見られる発達障害であり、子供だけではなく、診断方法が進んだことにより、中高年になってから自閉スペクトラム症と診断される患者さんも最近では増えている。

 認知機能にも効果がある可能性がある。大阪大学の片山泰一教授らと一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会の共同研究による論文では、認知機能や不安、感覚の過敏なども腸内細菌が関与していることが明らかにされている。

「腸内細菌を整えることで、これまで『生まれつきの特性』と諦められてきた困り事が、脳腸相関を介して改善できることが示されたわけです」(田中社長)

 腸内フローラケアは、もはや単なる健康管理の域を超え、私たちの「生きやすさ」を根本から支える新しい医療の形として大きな期待を集めている。