【Buzzの本懐】ニッチな内容とマスコットの〝本音〟で人気を集めるユーチューブチャンネル「有隣堂しか知らない世界」をご存じだろうか。神奈川発の老舗書店・有隣堂が、動画で人気を博するまでの道のりを、有隣堂の渡邉郁氏、動画プロデューサーのハヤシユタカ氏、そして大人気マスコットのミミズク、R.B.ブッコロー氏にインタビュー。前編ではチャンネルが発足するまでの試行錯誤に迫った。
――そもそも有隣堂と聞くと「神奈川の老舗書店」というイメージがあります。
渡邉郁氏(以下渡邉)祖業は書店なので、そのイメージに間違いはありませんが、売り上げで言うと全体の半分以下にはなっていますね。実はBtoBのオフィス向け機器の販売をしていたり、図書館の運営、音楽教室等もやっていたりします。ですが書店以外の事業をご存じの方は多くないと思いますね…。
――ユーチューブも多角化の一環だったということですか
渡邉 今の社長がまだ副社長だった頃に、「ユーチューブをやってみよう」となりまして。その背景には、出版業界や書店業界がだんだんと縮小していた中で、従業員の元気もだんだんとなくなっていたということがありました。社としても何とか成功体験を得て、もっと元気に輝いて働けるような会社にしたいという思いがあったと聞いています。
――「紙離れ」「書店離れ」の影響は大きかったですか
渡邉「紙離れ」のようなことは今に始まったわけではなくて、書店業界のピークは20年以上前に来ていたんです。書店数も最盛期と比較すると50%減とかになっていましたから、厳しさが「分かってる」というよりは、もう「分かってた」という段階でしたね。
ハヤシユタカ氏(以下ハヤシ)社長は複合施設「HIBIYA CENTRAL MARKET」を作ったり、台湾発「誠品書店」の日本1号店「誠品生活日本橋」をオープンしたりと、いろんなチャレンジをされていたんですよ。その中で自社メディアを持てば可能性が広がるんじゃないですか、と提案したのは僕ですね。
――ハヤシさんはその時点で他のユーチューブチャンネルを運営されていたのですか?
ハヤシ 別媒体で動画は作っていたけれど、ユーチューブに関しては趣味に近い形だったので。生業にしたのはこのチャンネルが初でしたね。
――チャンネル開設当初は動画のテイストが現在と違いますが…
ハヤシ その頃は別の制作会社が有隣堂社員と協力して作っていたので、僕は全く手がけてないです。
渡邉 私はそのチームにいました、ちょこんと…。
――チャンネルは今のような人気を?
渡邉 とんでもないですよ。動画を6本上げた時点で、登録者数は300人に届きませんでしたから。
ハヤシ 僕もなぜか制作陣と社員のメールをCCで共有してもらっていたので、流れは知っていたんです。ただ最初の6本の後で方針を変えようとなった時に、もっと面白くない方向に行こうとしていて。最初はビジネスに関係なくアドバイスをしていましたが、最終的には企画を任せてもらえませんかという話になりました。
――登録者数を増やすことに手ごたえはありましたか
ハヤシ 可能性は感じていましたね。企画に関してもある程度の自信はあったし、何より有隣堂という会社が神奈川県民の方から愛されていたので。全面的に看板を出していけば市民権は得られるのかな、と。
――その方針転換後に、ブッコローさんもMCとして出演されるようになりました。初めて企画を聞いた時はどのように感じましたか
R.B.ブッコロー氏(以下ブッコロー)初めてですか? 初めては15歳の時かな…。
〈渡邉氏、取材日一番の真顔を見せる〉
ブッコロー P(ハヤシ氏)とは昔からの知り合いで、7~8年ぶりに電話がかかってきたんですよ。急だったし、間違いなく金の話か怪しいビジネスの話かと思ったんですけど、出てみたらMCをやってみないかという話だった。とはいえ最初は1回断ったんですけどね。
ハヤシ いやいや、即答でOKだったから。今でも覚えてますけど、大井町の蕎麦屋の前で電話したら「来た仕事は断らないから」って。
ブッコロー いやいやいや…。確かに1発目でOKは出したけど、その時30~40分は話してるから。10分説明、20分もちゃついてからの10分承諾だから。編集と同じで、どうでもいい部分をPはカットするんですよ。
――お2人の関係性はお察しします。その上で〝ブッコロー〟として出演することは決まっていたんですか?
渡邉 依頼した時点で企画は決まっていましたね。
ブッコロー 決まっていたから仕事を受けたというのもありますけどね。もともと本家の「知らない世界」も見ていたし、パッケージとしても優れていると思うんですよ。ゲストに特定のジャンルへの〝偏愛〟を語ってもらって、こっちが素直な反応をしていけば企画として成立してしまうので、むしろやりやすいな、と。
――ちなみに横浜の書店ということを生かした「おしゃれな方向性」は考えられなかったのですか?
ハヤシ おしゃれにしようとすると炎上などのリスクは減りますが、面白さまで減ってしまうので、そもそも選択肢としてなかったですね。企業が発信する情報として必要なのは素直さだと思っていましたし。それに何があっても素直なメディアというのは面白い存在じゃないかな、と。
――現在はマニアックな知識を持つ書店員の方とブッコローさんのトークを基本軸にされていますが、こだわりを持った方は社内に多いのですか?
渡邉 すごく商品愛が強かったり、知識が深かったりする社員は多いなと感じていました。そこが我々の強みじゃないかという話は、リニューアル時に上がっていたんです。
ブッコロー 僕は勝手に有隣堂を全国チェーンだと思っていたから、枯れることなくそういう人が出てくるだろうと思っていたんですよ。いざ説明を受けたら「え、関東にしかないの…⁉」って衝撃で…。
渡邉 最初は〝枯れっ枯れ〟でしたね…。ずっと岡﨑(岡﨑弘子氏、動画に数多く出演する文房具バイヤー)が出演していましたから。
――実際に出演される前と後で、社員の方の向き合い方は変わるのでしょうか
渡邉 基本的に社内には動画に出たいという人がいないんですよ。こちらが声をかけても1回は断られますし。ただ何とか出演してもらうと、2回目からは快諾してくれるし、普段働いているお店でも、ポジティブにチャンネルのことを宣伝してくれるようになりますね。
――ではチャンネルが人気になるにつれて働きたいという方も増えたのでは?
渡邉 アルバイトは動画から知ったという子が結構いるみたいですね。バイトの募集も動画の中でしていて、実際に結果は出ているという感じです。今年の新入社員はあまり見ていなかったみたいですけど…(苦笑)。
(中編では現在進行形で高まる人気や、それぞれの思い入れのある動画に迫ります)
【有隣堂しか知らない世界】神奈川県を中心に展開する老舗書店チェーン・有隣堂が開設したユーチューブチャンネル。様々なジャンルに精通した社員やゲストと、ミミズクのマスコット・ブッコローの軽妙なやりとりが人気を呼び、チャンネル登録者数は26万人を突破している。













