ホークス一色の福岡・中洲に、阪神タイガース愛が燃え盛る老舗餃子店がある。戦後創業の「旭軒川端店」で、大将の半田英二さん(71)は熊本出身の筋金入りの虎党。店内の壁一面に阪神グッズが並び、試合中は「六甲おろし」が響く〝異空間〟を取材した。

中洲のど真ん中にある「旭軒川端店」
中洲のど真ん中にある「旭軒川端店」

 中洲の一角で、日が暮れるころになると「じゅうっ」と軽快な音が響く。鉄板の上で焼かれているのは博多名物の一口餃子。戦後に屋台から始まった「旭軒川端店」は現在4代目。厨房を仕切るのは息子で店長の新九郎さん(45)で、大将の英二さんは妻の昌子さん(53)とともに味づくりを支える。家族3人と数名のスタッフが、伝統の味と人情でのれんを守る。

 メニューは「焼餃子」(10個480円)、「水餃子」(10個480円)、「手羽先」(1本130円)、「酢もつ」(400円)、「大根の甘辛酢」(400円)――たったこれだけ。「これで十分。いや、これがいい」。餃子はパリッと香ばしく、キャベツの甘みがじゅわっと広がる。手羽先は独特の揚げ加減で冷めてもうまい。余計な飾りを排した分だけ、誠実な味が際立つ。

評判の焼餃子(左)と水餃子(右)、冷めてもおいしい手羽先
評判の焼餃子(左)と水餃子(右)、冷めてもおいしい手羽先

「皿は何枚割ってもいい。ケガをしたらクビだ」。英二さんの信条は、若いスタッフを守るための教えだ。割れた皿を無理に拾わせず、「触るな、俺が片付ける」と声をかける。働く人を思う優しさが、職人の哲学に通じている。かつては客に勧められ、営業中も酒を口にした。しかし、客同士の口論を仲裁した際に「お前も飲んどーやないか!」と指摘され、はっとした。それ以来、厨房でも自宅でも一滴も飲まない。「真剣にやろうと思った」。その決意が、今の姿勢をつくった。

 英二さんにとって虎党の原点は掛布雅之。「掛布がバットを振るだけで空気が変わる。あれが俺の中の阪神黄金期」。20年前から店内は阪神一色になり、客が持ち寄ったグッズであふれている。最初に飾られたトラッキー人形は、病床の常連が「店に飾ってくれ」と託した宝物。広島の社長が届けた新井兄弟の直筆サイン色紙も、今は店の奥で大切に保管されている。カウンター越しに見上げれば、黄色と黒のユニホームがずらりと並び、ここだけ別世界のようだ。

半田英二さんが〝家宝〟にしている〝新井兄弟〟のサイン色紙(新井貴浩、良太)
半田英二さんが〝家宝〟にしている〝新井兄弟〟のサイン色紙(新井貴浩、良太)

 阪神戦の夜は店内に応援歌が響く。ソフトバンクファンの街でも、巨人や広島ファンが肩を並べる。「気に入らんなら俺を嫌えばいい。でも餃子を気に入ってくれたらまた来てくれればいい」。その言葉通り、球団の垣根を越えて笑顔が広がる。今季、阪神リーグ優勝の夜には24席の店に40人が詰めかけ、外にも10人以上があふれた。中洲交番に一声かけ、店前でビールかけを敢行。「今年のMVPは石井と岩崎。佐藤輝もすごいけど、チームを支えたのはあの2人」。藤川監督の采配を「古い考えを一掃した」とたたえる。

 今年の日本シリーズを制したのはホークスだったが、ホークスの街にも「六甲おろし」が鳴り響く。虎を愛する心が、今も福岡に息づいている。