もはやミステリーファンのバイブルとなっているのが、宝島社刊行のミステリー小説ランキング本『このミステリーがすごい!』だ。1988年の初刊から今年で実に38年目の歴史を誇る。国内外のミステリーベスト20のほか、企画も満載でファン必携の一冊だ。その中から編集部の梅田みなみさんに「推しの5冊」を紹介してもらった。
「きれいに読者を驚かせてくれる」…『失われた貌』櫻田智也(新潮社)
国内編の1位。顔をつぶされ歯も抜かれていた中年男性の遺体が山中で発見され、遺体は10年前に失踪した父親ではないかという少年が現れる。しかしなぜ彼は殺されたのか。捜査が進むうちに、事態は思わぬ展開を迎える。
「センセーショナルではないけれど、すごく丁寧に人間関係が描かれ、伏線を張り巡らせて、最後にしっかり回収してきれいに読者を驚かせてくれる。設定が地に足がついており、地味だけどおいしい渋い職人芸の日本料理のように驚かせてくれる。キャッチコピーに『本物の伏線回収とどんでん返しをお見せしましょう』とありますが、その高いハードルを乗り越えている優れた作品です」(梅田さん)
「安心感と満足感のあるヒーローもの」…『私立探偵マニー・ムーン』リチャード・デミング(新潮社)
海外編1位。主人公は元ボクサーで、戦争で左足を失った私立探偵マニー・ムーン。7編の短編集で収録作品の1編では、どう考えても犯人としか思えない女性に「あんたは犯人じゃない」と見抜いて真相を暴いていく。
「決して正義の人ではないのですが『マニー・ムーン、カッコいいな』と思わせる痛快な作品集。安心感と満足感のあるヒーローもので、ハードボイルドではあるけど重苦しくなく心から楽しめるミステリー集。スッと入りやすくテンポが速い。主人公はすぐ事件に巻き込まれて解決に向かうので展開が速い。7編あるので読み応えがあります」(梅田さん)
「キャラクターに愛着がわく」…『ポルターガイストの囚人』上條一輝(東京創元社)
売れない俳優が実家に戻ると様々なポルターガイスト現象が起き、精神的に追い詰められ、男性と女性の超常現象専門家たちに捜査を依頼するが、やがて俳優は失踪。そして過去の連続殺人事件が浮かび上がり――。
「ジャンルとしてはホラーですが、新本格ミステリーのエッセンスがふんだんに盛り込まれている。その手法が見事な現代的な作品。怪現象に立ち向かう人間は独自の理論を構築して謎を解いていく。セクハラやパワハラなどの描き方も、今の倫理観に即しており、よけいなストレスがかからずスラスラ読め、爽快なエンディングを迎えます。調査に当たる捜査グループは個性派揃いでその絆が面白くキャラクターに愛着がわいてきます」(梅田さん)
「戦争と犯罪の間で揺れる人間模様」…『エレガンス』石川智健(河出書房新社)
終戦前の空襲が激化する中、洋裁学校に通う女生徒が4人、きれいなスカートをまとった死体で発見されるという異様な事件が起き、戦争の様子を撮影して記録していた警察官の男と、内務省職員が捜査を命じられる。10万人以上が犠牲となる東京大空襲という非常事態下で、数名の死者のために捜査を続ける意味、そして戦争を記録する意味は何なのかという葛藤を抱きながら捜査を進めるうち、ひとつの答えをつかみ取る。
「ミステリーとしても優れた作品で、意外な結末を迎えます。それと同時に、戦争と犯罪の間で揺れる人間模様が描かれている。戦争中でも人間らしく生きることをテーマにした傑作です」(梅田さん)
「読者に語りかけてくる主人公」…『真犯人はこの列車のなかにいる』ベンジャミン・スティーヴンソン(ハーパーコリンズ・ジャパン)
ミステリーの古典名作「オリエント急行殺人事件」(アガサ・クリスティー)へのオマージュ的作品で、ミステリーファンなら誰でも心を奪われる作品。欧州大陸を横断する列車の中で殺人事件が起き、乗車していた新人推理作家が事件を解明していく。
「主人公が読者に語りかける形式なのですが、とにかくうっとうしいほどに饒舌に読者に話しかけてきて『僕が体験したことを書いていく』と書きつつ『犯人の名前は(作中に)135回出てくる』など、とにかく細部について語る。それでも最後には過剰な情報はすべて意味があって、つながっていたことが分かる。独特のくどさが面白く、伏線回収も完璧な傑作です」(梅田さん)
☆今年で38年目!『このミステリーがすごい! 2026』
「『このミステリーがすごい!』は今年で38年目を迎え、26年版では2024年10月から25年の9月に発行された書籍から選ばれています。ミステリー読みのプロである書評家、作家、大学の研究サークルなどいろんなミステリーを読んでいる識者の方に選出してもらいました。国内外でベスト20が選出されており、選出者のアンケートとコメントも掲載しています。書評を書いた方と好みが合うと感じたら、ランクに入っていない作品でもその方の推しの本を探せる楽しみもあります。紹介文も面白いものばかりで、思わず手に取って読みたくなるものになっているので、ミステリーのガイド本として活用していただければと存じます」(梅田さん)

















