作家で〝えろ屋〟の紗倉まな(32)が12日、小説『あの子のかわり』(河出書房新社)を発売する。作家デビュー10周年を迎える節目に挑んだのは「妊娠&出産」をめぐる葛藤という重厚なテーマだ。現代を〝自由に〟生きる女性たちは、なぜかくも生きにくいのか。
――作家デビュー10周年おめでとうございます。昨年のエッセイ集「犬と厄年」からわずか半年。エッセイと小説では執筆の苦労も違うでしょうが、書くペースが上がってますね!
紗倉まな(以下紗倉) ありがとうございます。気づけば10年で、早かったですね。これまで(の小説)は考えすぎて行き詰まったり、書き直してみたものが結局ボツになったり…と本当に苦労が多かったんですが、最近になり、特に今作の「あの子のかわり」ではそういった悩みが薄らいできたなあと感じていました。なんとなく書き方がわかってきたようなタイミングと重なったのかもしれません…と言いつつ、そんなことを言っていられるのは今だけで、また嘆いていそうな気もしています…(笑い)。
――ご自身が経験されていない「妊娠&出産」を書くのは難しかったのでは
紗倉 そうですね。女性の私でもやっぱり知らないことが本当にたくさんあって、ママ友コミュニティーが充実しているマネジャーさんから20人ぐらい〝ママの声〟を聞かせていただいたり、出産経験がある方々とお話する機会も最近では多かったので、取材の感覚でずっと聞いていました。
――日本のみならず先進国では一様に少子化が社会問題になっています。未婚化・晩婚化がその要因のひとつとされていますが、何か思うところはありますか
紗倉 私の場合は主人公の由良と同じで、本職のことを差し引いたとしても、妊娠・出産が自分のキャパ的に難しいと思っているんです。出産すること、出産しないことのどちらも相手に強いるのはおかしいと言える時代ですし、生きやすさを享受しているなと思います。ただ一方で、自由であるほど、「○○する自由/○○しない自由」といった選択肢がある。そんな中であえて自分が選んだことやその決断を、後々に振り返っていったいどう捉えるのだろうか…とも思ってしまうんです。自由だからこそ不自由だなんて言うつもりはまったくないのですが、果たしてこれがベストなのだろうか、という悩みが自由によって膨らんでいく感覚があります。
――なるほど。30代女性は結婚、出産と人生の決断を迫られる機会が多い。加えて厄年だらけ…
紗倉 そうなんですよね。「カウントダウンが始まる」だとか「産むなら早いほうが体の負担も少ないよ」と周りから言われると、自分が本当はどうしたいのかという気持ちを置き去りにして、やっぱり産むことを考えないといけないのか…?と急かされている気持ちになってしまって…。だから自由ってすごくおおらかな面構えをして、近くにやってくると意外と高圧的だとネガティブに思ってしまうのだって、結局のところ「自分の意思なんて、自由を前にしては揺れやすく脆いものであった」と痛感させられてしまうからなんだよな…と内省したり…感情が忙しいです…(笑い)
――主人公・由良は愛犬ハリエットと夫に対して、愛犬ハリエットは新たに〝家族〟に加わる犬・ブロンに対して、能天気そうな旦那も由良に対して…と物語の随所に「自由を包み込む母性」が立ち上がっているように読めました
紗倉 そこまで解像度が高い状態で読んでいただきとてもうれしいです! おっしゃる通り、私は誰にでも「母性」のようなものがあるのではないかと思っていて。ただ、何をもって「母性」とするかという定義づけは人によって違うもので、もしかしたらこの考えそのものが冷笑されてしまうかもしれませんが。(母性の定義づけは)実際に産んだことがあるかどうかによってしまうところがあるような気もしていて、だから(出産していない女性が)誰かに対して抱いた愛情のもとにあるもの、またはそうしたあたたかい感情を、安易に「母性」と言ったり、認めていいものなのだろうか、というそもそもの「母性」への問いも、今作を書く動機に繋がったところがあります。主人公の由良も、その疑問に対して執着し続ける側の人間として書いてます。
――女性のマウンティングが三すくみであると示した論文があって、これとシンクロするような話でもある
紗倉 見ているとヒリヒリしますね…。私は「働く女性」からも「伝統的な女性」からも叩かれやすいのですが、みんんな無意識のうちに(マウンティングで)ストレスを抱えているのかもしれないなと感じます。
――最後に「あの子のかわり」というタイトルに込めた意味を
紗倉 変貌を遂げるの「変」と、代わり、代替物としての「代」という2つの意味を持たせてひらがなにしました。もともと執筆中の仮タイトルとしてつけていて、書き終えたあとに担当編集者さんといろいろ考えたのち、「一番、作品と合ってますね」とこれに着地しました。ちなみにラジオでご一緒しているケンコバさんには「えらく恐ろしいタイトルつけやがる。あの子のかわり…」ってホラーテイストで連呼していただいてありがたかったです。ただ、怖い話ではないはずなので、ぜひいろんな方に読んでいただきたいです!
【担当編集者の目】親友の妊娠に動揺する主人公。ともすれば「嫉妬?」と片付けられかねない感情を丁寧に解きほぐし、言葉を尽くして描き切ったのが本作です。
共感の声が多く届いているのは、紗倉さんの眼差しと筆致に類まれなる真摯さが宿っているからと思います。妊娠出産をめぐる葛藤は女性の人生に付き纏ってくるものですが、本作が辿り着いた結末には、新しい道、あるいは新しい歩き方が示されていると感じました。(河出書房新社『文藝』編集部・戸床奈津美)
☆さくら・まな 1993年3月23日生まれ、千葉県出身。2012年2月にSODstar専属女優としてAVデビュー。16年に初小説『最低。』は映画化され『春、死なん』、『うつせみ』はともに第42回、47回の野間文芸新人賞候補作となった。

















