いよいよ8月に入って夏本番を迎えた。一年で最も心躍る季節であると同時に、夏休みはレジャーだけでなく読書に適した期間でもある。そこで今回は大手出版社・集英社の広報部部次長、兒玉類さんに「夏がより輝く5冊」を推薦してもらった。青春小説から戦争小説まで、バラエティーに富んだこの5冊を読めば、夏の陽光がよりまぶしく輝くことは間違いない。
【給水塔から見た虹は/窪 美澄】
直木賞作家の最新長編小説。主人公は中学2年の桐乃で、関東の様々な国にルーツを持つ人が住む団地に両親と暮らす。母親は困っている外国人を助けることに熱心で「お母さんはなぜ自分より他人を…」という鬱々とした中2らしい感情を抱えている。
学校にも様々な国の生徒がおり、クラスメートのベトナム人のヒュウという男子は、日本語が得意でないこともあり、いじめの対象になっていた。とあることをきっかけに2人は「この団地を出てどこか遠くへ行きたい」という共通の感情を持つようになる。
夏休み、2人は「逃避行」へ飛び出す。訪れた場所での経験や出会いをもとに、それぞれ大人への一歩を踏み出す。エンディングも予想外。切なくも心が動かされる青春小説だ。
「現在、多くの外国人が日本で暮らし様々な問題を抱えていますが、小説からそのリアルさが伝わって胸が詰まります。それでも桐乃とヒュウの関係を含めて、希望を感じられる読後感があります」(兒玉さん)
【空をこえて七星のかなた/加納朋子】
現在、集英社は夏の文庫キャンペーン「ナツイチ」を展開しているが、兒玉さんがイチ押しするのがこの一冊。主人公の少女・七星(ななせ)を軸に「星」をテーマとした7つのストーリーから構成された短編集だ。
第1話「南の十字に会いに行く」では、父親・北斗の「南の島へ行くぞ」との言葉で2人は石垣島へ旅をする。七星は「去年まではお母さんも一緒だったのに…」という悶々とした気持ちを抱いている(注・母親の不在については第1話の後半で明らかになる)。
石垣島では訪れる先々で見かけるサングラスの男、優しい年老いた女性などとの出会いがあるが、北斗が実は七星に会わせるために石垣島を目的地にした「とある人」が、それらの出会いの中心である意外な展開に驚かされる。
その後は各話で星や宇宙が関係しながらドラマが描かれ、最終話でピースが次々とつながって完結する。大きな広がりを思わせるラストは見事と言うしかない。
「『ナツイチ』には魅力的な作品が多くありますが、夏といえば星という個人的なイメージでこの本を選びました。今の時代らしい、女性たちのしなやかな活躍っぷりも読みどころです。特に第1話では『そうくるか!』と目を見張りましたし、それが回収される最終話も感動的です」(兒玉さん)
【終わらざる夏㊤㊥㊦/浅田次郎】
文学界の重鎮・浅田氏の長編傑作。太平洋戦争終結から今年でちょうど80年、玉音放送が流れた1945年8月15日の後にもかかわらず、千島列島の北東端にある占守(シュムシュ)島では日本軍とソ連軍が壮絶な戦車戦を展開した。本作は本来なら「戦わなくてもよかった戦争」という渦に巻き込まれた人々の運命を描いている。
軸となるのは兵役年限直前に赤紙が届いた45歳の翻訳書編集者の片岡、4度目の召集となる鬼熊、帝大医学生の菊池。3人は終戦間際に召集され、千島列島へ向かうことになる。
あらがいようもなく戦争に人生を狂わされた人々の姿を鮮明に伝え、徹底的に戦争の不条理さを描き、最後は声を失う結末を迎える。戦争の悲惨さを伝えた傑作だ。
「単行本が刊行された15年前に読んだ時に覚えた、鉛をのんだような重苦しさがいまだに残っています。世界中が戦いのニュースにあふれる今だからこそ、戦争にキレイ事なんかないという事実を認識する必要があると思います。全3巻とかなりの長編ではありますが、ぜひ読んでいただきたい作品です」(兒玉さん)
【データで読む甲子園の怪物たち/ゴジキ】
夏の甲子園がいよいよ開幕。本書は甲子園を沸かせてきた21世紀の高校野球の「怪物」と呼ばれた32選手を厳選して詳細を分析している。
プロとして大成功した選手もいれば、高校時代ほど活躍できず引退した選手、プロに入れなかった選手もいる。その違いはどこにあるのか。そしてプロで成功する選手たちが持っている力とは何なのか。成功組ではダルビッシュ有、田中将大、藤浪晋太郎ら平成から令和にかけての「怪物」たちの甲子園の成績や、その後の選手たちの分岐点を検証し、変わりゆくスター選手像を検証した野球ファン必読の一冊だ。
「ちょうど記事掲載の翌日5日に甲子園が開幕するのでタイミング的にいいかと選びました。データを交えた読みやすいノンフィクションで『ああ、あの時に見たあの試合のあの選手か』と、懐かしい気持ちにもなれます」(兒玉さん)
【虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督/村瀬秀信】
阪神タイガース史上でも屈指の謎とされる老人監督・岸一郎の「けったいな」真相に迫ったノンフィクション。1955年(昭和30年)にプロ野球経験ゼロの還暦を過ぎた老人が突然、一軍監督に大抜てきされてしまったことから話は始まる。
岸は藤村富美男らベテラン選手の反発にも遭いながらも選手の新旧交代に着手。球団内は大混乱に陥る。そのドタバタを描いた内容は抜群に面白く、第21回開高健ノンフィクション賞の最終候補に残り選考委員から絶賛されるも「圧倒的に読ませるが虚実の境目があいまいで、これをノンフィクションの賞に選んでいいのだろうか、との声が出て賞を逃しました」(兒玉さん)という。
結局、わずか33試合(16勝17敗)で休養に追い込まれるのだが、岸とはどんな人間だったのか。作者は数少ないゆかりの地を訪れ、吉田義男氏、小山正明氏、広岡達朗氏ら往年の名選手たちの貴重な証言で「謎解き」に挑み、最後にはあっと驚く結末が待っている。
「現在、阪神が首位を独走しているのでこの本を選びました。虎党はもちろん、そうでなくてもビール片手に楽しく読めることを保証します」(兒玉さん)

















