佐賀県が本気で“火”をつけにいった。人気漫画「キングダム」との大型コラボ「キングダム×(駆ける)佐賀県~佐賀の火を絶やすでないぞォ。~」が始動し、佐賀空港は期間限定で愛称を「佐賀キングダム空港」に変更。さらに屋外展示、伝統工芸、温泉街まで県内を横断する前代未聞の仕掛けが展開されている。なぜここまで振り切ったのか、その舞台裏に迫った。

佐賀県政策部「サガプライズ!」プロデューサーの池田匡孝さん
佐賀県政策部「サガプライズ!」プロデューサーの池田匡孝さん

 仕掛け人の中心に立ったのが、佐賀県政策部「サガプライズ!」プロデューサーの池田匡孝さん(29)だ。キングダムの作者・原泰久が佐賀市出身であること、そして連載20周年という節目が重なったことが背中を押した。「『なぜ佐賀なのか』という問いに、これ以上ない答えがあった。ファンに納得してもらえる物語が描けると思った」。単なる話題づくりではなく、作品と正面から向き合う覚悟が今回の企画の出発点だった。

 象徴に据えたのが、空の玄関口そのものを変える「空港ジャック」だ。正式名称はそのままに、愛称を「佐賀キングダム空港」に変更。外壁や階段、ガラス面に至るまで世界観で包み込んだ。「名前まで変えることで、本気度が一瞬で伝わる。ここから物語が始まる入り口をつくりたかった」。到着した瞬間から、旅と物語が重なり合う演出を狙った。

ガラス面もキングダムで装飾されている
ガラス面もキングダムで装飾されている

 そこから一歩外へ誘う仕掛けが、有明海沿いに出現した「読破堤」だ。原作1巻から77巻まで全ページを掲出し、全長は約300メートル。過激な場面は、佐賀名産のノリで隠す遊び心も加えた。「中途半端は一番やってはいけない。全部やると決めた」。全巻掲出という選択は、作品と真正面から向き合うという覚悟の表れだった。

 この姿勢は県トップの言葉とも重なる。山口祥義佐賀県知事は現地を訪れ、「キングダムファンには考えられない光景。人生に響きを与え、明日また頑張ろうと思わせてくれる作品。その力を佐賀で体感してほしい」と語った。空港や読破堤を起点に、県内各地へ足を延ばしてもらう流れにも期待を込める。

 空港3階で開かれる特別展も、その思想の延長線上にある。テーマは「受け継がれる火」。主人公・信が漂や王騎らから思いを託されていく名場面を軸に、複製原画や巨大パネルで構成した。佐賀の伝統工芸・有田焼との融合も見どころで、人間国宝だった故井上萬二氏の技を受け継ぐ3代目陶芸家・井上祐希氏が、本企画のために制作した有田焼の大皿5点も展示。「キャラクターを邪魔せず、白磁の中でどう生かすかを考えた」と語り、山口知事も「白と黒のコントラストが完璧」と評価した。

空港3階で展開されるキングダムの特別展示会場
空港3階で展開されるキングダムの特別展示会場

 施策は空港の中だけにとどまらない。秦の始皇帝ゆかりの地とされる古湯温泉での周遊企画をはじめ、市街地を走るラッピングバスなど、県内各地へと広がる。「空港だけで終わらせない」。池田さんの言葉通り、有明海の風景や温泉、工芸、街を一本の物語としてつなぎ、来訪者を次の目的地へと誘う構想だ。

 プロジェクトは3月29日までの期間限定。「今しか見られない。その『今』に来てもらうことが一番のメッセージ」。佐賀がここまで振り切った理由は、派手さではなく、火を絶やさないという覚悟にあった。