名将の〝口撃〟が物議を醸している。2020年から23年までエンゼルスの指揮官を務め、当時所属の大谷翔平投手(31=ドジャース)を二刀流として進化させたジョー・マドン氏(71)がジャイアンツの新監督就任を決めたトニー・ヴィテロ氏(47)に対し、痛烈な批判を浴びせたからだ。米メディア「アルバット」によれば、マドン氏は米ラジオ局「KNBR680」のインタビューで、この人事を「侮辱的だ」と断じ、米球界に波紋が広がっているという。

 ジャイアンツが今オフ、大学野球の名将として知られるテネシー大のヴィテロ氏を抜擢したことは、MLB内でも異例の判断と受け止められた。ヴィテロ氏は同大学で強豪を築き上げ、幾度となくカレッジ・ワールドシリーズに導いた戦略家。しかし、マドン氏は強烈な懸念を示した。

「私の時代はマイナーで汗をかき、スカウトとして地道に現場を知り、苦労を積み上げて一人前になるものだった。今はプロの経験がなくても、トップポジションに就けるようになってしまった」

 この「即席監督」への風潮に、マドン氏は危機感を隠さない。自身はレイズ、カブス、エンゼルスを率い、数々の名門球団の現場トップを歴任。とりわけ16年にはカブスを108年ぶりのワールドシリーズ制覇に導いた実績を持つ。さらにエンゼルス時代には、大谷をMLBでも「ツー・ウエイ・プレーヤー(二刀流)」として定着させた〝立役者〟としても知られている。

 それだけに、プロ未経験のヴィテロ氏の電撃抜擢は到底納得できないというわけだ。一方で、ヴィテロ氏の能力について完全否定しているわけではない。「彼のビデオも見たし、準備ができていると考える人がいるのも理解できる」とマドン氏は指摘。ただし、同氏が重視するのは「積み重ねた現場経験」。これが欠けたまま、MLBのベンチに座ることへの危険性を指摘し続けた。

 今回の人事は、メジャー界で進む〝新風〟と〝伝統〟の衝突を象徴するものでもある。データやマネジメント重視の潮流が加速するMLBで、経験と実績を第一とするマドン氏の主張はベテラン勢の本音を代弁しているとも言える。

 大谷のかつての〝恩師〟でもある名将が発した強烈な一言はジャイアンツだけでなく、MLB全体の監督人事のあり方に一石を投じることになりそうだ。

2022年、大谷翔平とグータッチするマドン監督(ロイター)
2022年、大谷翔平とグータッチするマドン監督(ロイター)