青い車体が、いま再び脚光を浴びている――。かつて東京と九州を結んだ寝台特急「はやぶさ」が、いまは熊本・多良木町で簡易宿泊施設「ブルートレインたらぎ」として第2の人生を送る。走らないのに“寝台列車”というユニークなスタイルで、鉄道ファンのみならず観光客の心をつかんでいる。山里にたたずむ“ブルートレイン”が、地域の新たな象徴だ。

多良木町役場の上田栄次朗さん(左)と当時のままの洗面台
多良木町役場の上田栄次朗さん(左)と当時のままの洗面台

 案内してくれたのは、熊本・多良木町役場企画観光課の上田栄次朗さん(24)。若手職員として、車両の維持管理からイベント企画まで携わっている。

 上田さんによると、発想のきっかけは「町に泊まる場所がほとんどなかった」ことだった。「当時はビジネスホテルが1軒あるくらいで、スポーツ大会の参加者も町外の宿に流れてしまっていたんです。だったら自前で泊まれる施設をつくろうという話になったと聞いています」と説明する。

 そこで浮かんだのが、廃止された寝台列車を活用するというアイデア。「ちょうど寝台特急『はやぶさ』の廃止が話題になっていて、ブルートレインを再利用できないかと考えました」。2010年7月、青い車体が町に到着。鉄道ファンの間で特に知られていなかった多良木が、一躍注目を集めた。

 導入にあたってはJRとの交渉も難航。「しっかり保存して使う前提だったので、そこを評価してもらえたのだと思います」。搬入は夜を徹して行われ、人吉駅から巨大トレーラーで運び込まれた。深夜の多良木に、青い車体がゆっくりと“上陸”した。

 2021年には外装を塗り直し、当時より少し濃い青に。「外装もそうですが、内装も含めてきれいにリニューアルしました」。“目的地がなくても乗れる寝台列車”の名の通り、訪れる人に非日常を届けている。

 ただ、走らなくても維持は“現役”並みに大変。「照明は蛍光管のままで、部品の調達も難しい。それでもお客さんに喜んでもらいたいので、しっかりお金をかけて直しています。多良木町のシンボルとして長く残していきたい」と語る。

宿泊フロントも列車内(左)くつろぐお客さんの姿も
宿泊フロントも列車内(左)くつろぐお客さんの姿も

 鉄道ファンからの反応も熱い。「当時『はやぶさ』に乗っていた方から“ありがとう”と言われることもあります。ユーチューバーが泊まりに来て動画を上げてくれたこともありました」。SNSでの拡散が“走らないブルトレ”を全国区に押し上げた。

 近年は漫画『青春鉄道(あおはるてつどう)』とのコラボも実施。2024年には作者・青春(アオハル)先生による作品展「青春展」を開催し、「ブルートレインたらぎ」館内には“青春鉄道ルーム”も登場。今年12月にも再びコラボ企画が予定されている。

 宿泊料金は1泊3000円台と手頃。WiFiも整備され、寝台列車の雰囲気を保ちながら快適に過ごせる。宿泊客は町内の温泉や居酒屋に足を運び、名物「球磨焼酎」も人気だ。「町には7つの蔵があって、白岳や球磨の泉などさまざまな銘柄があります」。2020年の豪雨やコロナ禍では利用が落ち込んだが、今は回復傾向。「被害は少なかったんですが、宿泊客は減りました。今はだいぶ戻ってきています」と胸をなで下ろす。

 最後に、上田さんは「県外の人たちに来てもらうための、なくてはならない存在。多良木町を知ってもらう入り口になっている」と言葉を選んで語った。静かに眠る青い車体は、いまもこの町に夢と人を運び続けている。

ブルートレインたらぎは3両編成となっている
ブルートレインたらぎは3両編成となっている