本来ならばそこには生息していないはずの生物が現れ、「謎の生物」として報道されて騒動になることが現在でも度々ある。

 このUMA図鑑でも紹介してきたカンガルーに似た謎のUMA「ニタゴン」や「北海道のサイ」などだ。軽いものならば、以前起きた迷いアザラシのタマちゃん騒動なども当てはまるだろう。この手の生物は基本的に臆病で、短い期間で姿を現し消えていくのが常である。しかし、かつて日本には、他に類を見ないほど凶暴なUMAが襲来したという伝説がある!

 それは天保14(1843)年、千葉県の印旛沼でのこと。怪物は全身が真っ黒で手はヒレのようで爪があり、鼻は低く猿のような顔つきをしていたという。この怪物については、体の大きさの記述が詳細に残されており、全長約4・8メートル、顔回り約3メートル、爪の長さ約30センチ、手の長さ約1・8メートル、目の大きさは四斗樽ほどもあり、口の大きさは約1・5メートルもあったという。

 現在では「印旛沼の怪獣」とも呼ばれているこの化け物は、印旛沼と利根川の水路工事をしていた者たちの前に嵐とともに突如出現。化け物が雷のような大きな音を立てると現場にいた見回りの役人ら13人が即死してしまったとされている。見た目のコミカルさとは裏腹に危険生物だったようだ。

 この化け物の正体について、資料の記述や見た目から一般にアザラシ等の海獣類が川に紛れ込んだものを誤認したのではないかと考えられている。しかし、これでは「大きな音を立てたために13人が即死した」という記述との整合性がとれない。

 では、この化け物の正体は何だったのか。実は、この化け物出現の話は全くの創作であり、印旛沼干拓事業を批判する地元の人々が皮肉って作ったものではないかと考えられているのだ。声を大にして言えない人々の批判や不満が膨らんで生まれたのが「雷のような大きな音を立てる、口の大きな妖怪」だったのだ。