阪神が7日の広島戦(甲子園)で2年ぶり7度目のセ・リーグ優勝を決めた。1950年の2リーグ分立以降では90年の巨人(9月8日)を上回るNPB最速記録。歓喜の胴上げの裏には、甲子園から程近い〝パワースポット〟の存在も…。不動明王の壁画を拝めば夢がかなう――。そんな〝ちゃらんぽらん伝説〟を背負った藤川球児監督(45)が就任1年目からぶっちぎりで球史に名を刻んだ。

阪神・藤川監督が通い詰めた焼肉店「光」
阪神・藤川監督が通い詰めた焼肉店「光」

 甲子園の大歓声が夜空を切り裂いた。優勝決定の瞬間、藤川監督は破顔。指揮官の周りにはナインが集まりスタートした胴上げは、火の玉直球のように空高く体を浮かび上がらせた。虎党が待ち望んだ歓喜の瞬間の裏には、指揮官が無名時代から足しげく通い続けた尼崎市塚口の焼き肉店の影があった。

 阪急・塚口駅から住宅街を抜けると、そこにあるのはモウモウと煙を吐き出す名店の「光」。指揮官が何度食したか分からない塩タンを焦がす香ばしい匂いが店前にまであふれ出す。ただ、この店のすごさはその美味だけではない。

 2階に鎮座する不動明王の壁画だ。作者は元吉本興業のお笑いコンビ「ちゃらんぽらん」の大西浩仁(現・幸仁=こうじん)さん。芸人でありながら美術の才能にも恵まれた絵画の腕は確かで、地元ではそのご利益も相まって〝パワースポット〟と認識されている。

 時をさかのぼること40年ほど。阪急ブレーブスが存在した時代、遠征で「光」を訪れた西武黄金期の6人(秋山幸二、大久保博元、工藤公康、渡辺久信、伊東勤、田辺徳雄)が後にことごとくプロ野球の監督に就任した。以来、「光=監督養成所」と称されている。

「光」に飾られている不動明王の壁画(大西幸仁さん作)
「光」に飾られている不動明王の壁画(大西幸仁さん作)

 藤川監督も現役時代から何度も足を運び、不動明王の前で「頼んます」と手を合わせた。そんな指揮官だが、2024年12月末に監督就任が決まると立場を考慮し「迷惑がかかるかもしれないから」と律義にも店に通うのをやめたそう。それでも不動明王に手を合わせ続けた思いは、采配に宿っている。

 店主いわく「大西くんが絵を描く最中、青いモヤモヤしたオーラみたいなものが湧き上がって、絵の中に吸収されていくんよ。パワーはあると思うよ」と笑う。

 そして迎えた快挙。阪神で就任1年目に優勝監督となったのは史上初だ。しかも、コーチ経験がなく初年度に頂点に立ったのは04年の中日・落合博満、12年の日本ハム・栗山英樹、15年のソフトバンク・工藤公康に続く史上4人目の金字塔となる。

 忘れてならないのは、ちゃらんぽらんの冨好さんのボケに対し、大西さんがツッコミを入れた名ゼリフ「中途半端やなあ~」。だが、不動明王のご利益、恩恵を全身で受け止めた藤川監督は正真正銘の〝半端ねぇ〟偉業を成し遂げた。胴上げで宙を舞う藤川監督の姿、塚口の不動明王は甲子園の夜空で半端なくリンクしていた。