【3元号レジェンド】時代を越えて活躍する〝レジェンド漫画家〟平松伸二氏へのインタビュー。後編では最新作「大江戸ブラック・エンジェルズ」の制作経緯や、「キャプテン翼」の高橋陽一氏から受けた衝撃、現代の「ジャンプ」に感じる作風の変化まで、赤裸々に語ってもらった。

 ――作品では話題の人物や事件をモチーフにされていることも多い印象ですが、クレームは来ないのですか?

 平松 そもそもクレームが来そうだから描くのをやめようと、自分でブレーキをかけることはないですね。ヤバいと思ったら編集部も取り下げてくれるじゃないですか。

 ――まずは描きたい内容を優先される、と

 平松 それに実を言うと、クレームが来ている漫画の方がヒットしているんですよ。「ドーベルマン刑事」は初回からクレームが来て、武論尊先生と編集部が謝りに行って。「平松君は若くて何を言うか分からないから」って僕は待機していたんですけどね。「ブラック・エンジェルズ」も第1話で、出所した青年を「お前はまた犯罪に手を染める!」とつけ狙う刑事を描いたんですよ。そしたら警視庁から直接電話が来て「刑事はそんなことしません!」って怒られた(笑い)。

 ――その中で現在は「大江戸ブラック・エンジェルズ」を連載中です

 平松 これまでも「どす恋ジゴロ」(プレイボーイの力士「恋吹雪」を主人公とした相撲漫画)や「そして僕は外道マンになる」(平松氏の漫画家としての人生を振り返る自伝的作品)は、世間で評価されていなくても、絶対に面白いという自負はあったんですよ。けれど前作の「外道マン」が失敗して、もう通用しないのかなという思いがあって。そうしたらたまたま「乱」の編集者から、時代劇をやってみないかと言われたんです。

「大江戸ブラック・エンジェルズ」(Ⓒ平松伸二/リイド社)
「大江戸ブラック・エンジェルズ」(Ⓒ平松伸二/リイド社)

 ――新たな活動の場ができた、と

 平松 読者層が60代前後ということを聞いて、それなら自分にできることもあるのかなと思って。いろいろ江戸時代について勉強していたら、どうしても「必殺シリーズ」が浮かんだんです。であれば〝先祖返り〟のような形で、ブラック・エンジェルズのメンバーを江戸時代で動かしたいな、と。

 ――ある種の〝スターシステム〟ですね

 平松 時代設定は忠臣蔵の時代か、東洲斎写楽や葛飾北斎が活躍した「浮世絵の時代」のどちらかで悩んでいたんです。その時に浮世絵の時代なら、主人公の表の顔として浮世絵を描かせればいいと気付いて。僕も絵描きとして感情移入しやすかったし、写楽が活躍していた1794年~95年の、10か月という短い期間に設定しました。

 ――読者の中には、以前「ブラック・エンジェルズ」を読んでいた方も多いのですか?

 平松 感覚としては元々知らなかった人の方が多いかな…。当時のジャンプを読んでいた世代の人は、あまり漫画を読まなくなっているというか。年齢を重ねるにつれてどうしてもある程度の〝漫画離れ〟は起きますから。

 ――それでは比較的若い世代にも読まれている?

 平松 いや、あくまでもメインターゲットは60代です。若い人はそもそも忠臣蔵を知らないくらい時代劇から離れてしまっているし。

「大江戸ブラック・エンジェルズ」の〝勧善懲悪〟シーン(Ⓒ平松伸二/リイド社)
「大江戸ブラック・エンジェルズ」の〝勧善懲悪〟シーン(Ⓒ平松伸二/リイド社)

 ――作品の中では筆で書かれた文字も印象的です。現在は漫画と書道を組み合わせた作品も作られているそうですね

 平松 「漫書」って呼んでるんですけど、小3から中3までの7年間書道を習っていて。小中学生では「〇〇段」の上の「特待」まで取っていたから、そこそこ筆に自信はあったんですよ。以前個展を開いた時に、会場に下見に行ったら前の人が書を展示していて。そこからインスピレーションを受けて作るようになりましたね。今は近所の書道教室に通って、行書や草書も習ってます。

 ――新作や新しい試みにチャレンジできる原動力はどこから?

 平松 例えば「ONE PIECE」は世界中でヒットして5億部以上売れてるっていうけど、僕もそれだけ稼げたら引退して悠々自適な生活を送っていると思う。ただ僕はそんなに悠々とはできないから、仕事があるうちは描きたいというのが本音で。今年69歳になりますけど、近い目標としては70歳まではやろうと思ってます。

 ――平松さんのアシスタントをされたこともある「キャプテン翼」の高橋陽一さんは、連載の終了を発表されました

 平松 高橋君の場合は完全に引退するということではなくて、ネームはまだ続けていくということだから。それに今は「南葛SC」というサッカーチームも持っているし、「サッカーを続ける」ということに重心を移したのかなとは思いますよ。

 ――アシスタント時代の高橋さんを見て、将来性を感じられたことは?

 平松 当時どこまで売れるかは分からなかったですけど、僕とは発想が全然違ったんですよ。僕は「あしたのジョー」や「巨人の星」の影響が強くて、スポーツと言えば〝ド根性〟だった。でも高橋君の場合は「好きだから、楽しいからやる」っていう感じでしょ。それが「ボールはともだち」という言葉に集約されていたし、すごく新しいなと思いましたよ。

後輩についても語ってくれた
後輩についても語ってくれた

 ――他にも後輩の漫画家に衝撃を受けるということは?

 平松 それで言うと、「ONE PIECE」が大ヒットしていると聞いて読んでみたら、僕には少し分かりづらくて。僕の感性は正直古いので、新しい感覚の漫画はだんだん分からなくなってきたというのはありますね。畑が違うというか、それはきっとどこの世界も同じなんでしょう。演歌歌手が今のアニメの主題歌が分かるかと言ったらそれは難しいだろうし。一方で理解できるというか、80年代前後の流れを感じる作品もありますよ。連載は終わってしまったけど「ゴールデンカムイ」や「火ノ丸相撲」は僕にも分かりましたね。

 ――連載時と現在では「ジャンプ」にどのような違いを感じられますか?

 平松 「友情・努力・勝利」がジャンプでは掲げられていますけど、「努力」はなくなってきたのかなと。「努力でできないものもある」ということを、今は子どものうちから分かってしまうから。

 ――若者がより現実的になった部分もあるということですね

 平松 あとは、そもそも「努力」という言葉が今の時代に合わないのかもしれない。大谷(翔平)君を見ていても、野球というスポーツが好きだから練習しているという印象で、「上に行くためには、勝つためには努力しないと…」という風には見えないしね。

 ――ちなみに部屋にも大谷翔平のポスターが貼られていますが…

 平松 大谷君は大好きですよ(笑い)。こんな完璧な人はいないんじゃないかなって。どこで遊んでるんだろうって同じ男としては思っちゃいますけどね。こんなにスキャンダルがない人も珍しいから。

仕事場には大谷翔平のポスター
仕事場には大谷翔平のポスター

 ――最後に今後の目標を教えてください

 平松 今はとにかく「大江戸ブラック・エンジェルズ」をヒットさせるのが目標。僕自身はめちゃくちゃ面白いと思って描いているので、これを何とか評価してもらって、重版をかけたいなと思ってます。

 ――最新作で一番アピールしたい部分は

 平松 50年漫画を描いていて、勧善懲悪もので何が言いたいのかというのはずっと考えていて。やっぱり〝因果応報〟で、悪いことをすれば絶対に報いを受けるということが、自分の伝えたい永遠のテーマかなとは思います。それこそ「地獄へおちる」、とね。

 ◆ひらまつ・しんじ 1955年8月22日生まれ。漫画家。75年に「ドーベルマン刑事」で連載デビューし、「ブラック・エンジェルズ」「マーダーライセンス牙」「リッキー台風」等で人気を集める。現在はリイド社「コミック乱」で「大江戸ブラック・エンジェルズ」を連載中。