【森脇浩司 出逢いに感謝(9)】糸井嘉男はどちらかというと完璧主義者の印象で、彼のコンディションづくりに取り組む姿勢は素晴らしかった。でもコンディションがいい時も悪い時もある。70%の時なら100%にするんじゃなく、70%の中での100%を目指すという捉え方が必要と考えていました。年間に50試合見に来てくれるお客さんもいれば、1試合しか来れない人もいる。そういう人にも感動を与えられるのがプロ。いつもいつもすごいピッチング、ホームランを打てるわけではない。でも野手なら打てなくても、守備、走塁で見せることだってできる。嘉男なら走者に出るとみんな期待して見るでしょ。そこまで要求していたと思います。

 チームとしてもそこにこそ伸びしろがある。逆に守備なら相手がやろうとしていることをどれだけ事前に防げるか。2点を与えるところを1点に抑え、攻撃なら2点のところを3点取る。この微差が大差になる。豪快な本塁打が出て大勝したり、ミスが出て大敗したり…。ファンに見せたくないけど、年間に何試合かは出てくるもので、若い投手にはそういう試合も経験になります。

 嘉男は2014年に打率3割3分1厘で首位打者を取るわけですが、最後に楽天の銀次が追い上げてきた。10月2日に福岡でソフトバンクに敗れて優勝がついえ、残り2試合が仙台での楽天戦。その2試合はすぐに始まるCSファーストステージにつながるので有効なものにしたい。もう1つ思っていたのが、チームとして戦うシーズンの試合が2日に区切りがつき、個人に目を向けた時にタイトルの可能性があるなら取らせてあげたいということ。それぞれが見せつけた成績には個人差があるんだけど、嘉男は中心選手として最後まで戦ってくれた。何日か後にあるCSでまた爆発してもらわないと困るし、同じくらい首位打者も取らせてあげたかった。

 嘉男は残り2試合を外れ、一方の銀次は3割2分6厘。4日の試合は銀次が1番に入り、ウチは5打席連続四球と勝負を避けた。いろんな声はあったかもしれないけど、そこは親心だし、逆に追いかける立場なら嘉男はもちろん出ていた。普通に出ていても嘉男なら打っていたと思うし、負けることはなかったでしょう。

 僕が「どうする?」と聞けば嘉男なら「出る」と言うはず。2日の試合が終わり、僕的に調べたうえで「ここまで本当によくやってくれた。CSに備えてくれ。頼むぞ」と声をかけると「分かりました」と…。僕に迷いはなかった。その時点で今年の首位打者は嘉男だと思っていました。キャンプを経て開幕し、ケガがありながらもみんなにその背中を見せつけてきた。僕は親という気持ちで選手を預かり、接していた。選手は我が子、チームは家族ですからね。

 野手の中心が嘉男なら投手はエースの金子千尋でした。