【松本薫の野獣道(11)】 2012年7月30日、決戦当日の朝。前日に吹っ切れたので特にワクワクもなく、すごい緊張もなく、普通に「あ、来た。今日が戦う日か。どこまで行けるかな」という感じでした。いつものルーティンで朝は卵を食べます。「黄身」と「金メダル」をかけていたので。その願いを込めて、卵を食べて、お米を食べて…いつも通りに試合場へ向かいました。

 調子は普通で、淡々と自分の試合をこなしていきました。外国人は五輪への照準の合わせ方が違っていて、めっちゃ強くなるので「あれ?やるな」と最初はびっくりしましたが、やるべきことをやっていたら準決勝まで勝ち進んでいました。準決勝で負けたら3位決定戦に回りますよね。負けたらメダルがないって本当に嫌なポジションなんです。決勝は勝っても負けてもメダルがある。だから準決勝は、一番気合が入っていました。

 準決勝はよく覚えています。フランスの選手(オトヌ・パビア)が相手だったのですが、すごい集中して、相手の呼吸をずっと聞いていました。ポテンシャルでは負けていたので、私が勝てるタイミングは、相手が疲れてきた時と考えていましたので。心臓の音、息の音、胸の開き具合、肩の動きなどを見て、聞いていました。ゴールデンスコア(延長)に入ると相手の息が上がってきたんです。そこでやっと人間が最後、息の音が限界に達する音があって「ヒー」とちょっと出る時があるんですよ(笑い)。この音が出たら、技かけても踏ん張れないぞ、というタイミングが来た合図なので「今だ!」と思って、投げました。

 決勝進出が決まった時は、やっと天国に行けたって思いました(笑い)。決勝まではテレビ中継の関係で時間が空いたのですが、その間に邪念が出てきたんですよ。目の前の相手しか見てこなかったのに「え、次勝ったら優勝か」みたいな。なので「ダメダメダメ、目の前の相手だけ」と言い聞かせていました。いざ決勝戦が始まる直前になると、目の前に相手が現れるので、自然と浮つきはなくなりましたね。決勝はいつも勝っている相手(コリナ・カプリイオリウ=ルーマニア)なのですが、覚悟と照準の合わせ方が違って、まるで別人と戦っているみたいでした。外国人は心が折れることが多いけど、五輪の決勝という舞台だと心は折れない。どうしたら勝てるかなと考えたときに「相手をパニックにさせたらいいのか」とひらめきました。