大相撲夏場所では幕内力士7人が休場。2横綱2大関が不在となるのは5年半ぶりで、故障者の多さを強く印象づけた。日々の鍛錬で防げるケガがある一方で、相撲が格闘技である以上は負傷と隣り合わせ。元大関琴奨菊の秀ノ山親方(42=本紙評論家)による連載「がぶりトーク」では、自身の経験を踏まえながら「ケガとの向き合い方」について掘り下げた。

【秀ノ山親方・がぶりトーク】読者のみなさん、こんにちは! 今回のテーマは、ケガとの向き合い方です。団体競技では故障者がいれば代わりの選手が試合に出るけれど、お相撲さんは自分以外に代わりがいない。現役時代は正直、他競技の選手がうらやましいと感じたこともあります。大相撲の本場所は2か月に1度。ケガが治り切らないまま次の場所を迎えたことも、少なくありません。

 完治してから復帰する方法もあるけれど、番付が落ちることを考えると簡単には休場に踏み切れない。私もある程度までのケガであれば、だましだまし本場所に出ていました。もちろん、気力だけではどうにもならないこともある。その一つが、2013年九州場所の右大胸筋断裂でした。2日目の取組でケガした瞬間には「腕が取れた!」と思ったほどです。

 土俵下に落ちて体を起こそうとしても、右腕がついてこない。左手で右手の指先をつかんで持ち上げないと動かない状態でした。病院で大胸筋断裂と診断され、力士生命が終わると思った。不安になって調べてみると、柔道の井上康生選手が同じケガで引退したという記事を見つけてさらにショックを受けた記憶がある。それでも相撲は気になるので、休場中もテレビ中継は見ていました。

 ただ、土俵に立てないことがもどかしく、悔しさがこみ上げてくる。自分が出ていないのに、しこ名入りの応援タオルを振ってくれる人がテレビ画面に映っていたり…。そこで「どんなことがあっても耐え抜こう」と奮い立ったんですね。その後は師匠の知り合いなどを通じて名医を紹介していただき、何とか次の場所に間に合わせることができました。

 他にも数えきれないほどケガをしましたが、悪いことばかりではありません。患部に負荷をかけないように立ち合いの当たり方を変えてみたり、左差しを左前ミツ狙いにしてみたり。結果的には「ケガの功名」で相撲の幅が広がりました。それに、力士が負傷するのは後ろに下がった場面が圧倒的に多い。私自身、前に出る相撲に磨きをかけるきっかけになった。

 夏場所で優勝した若隆景も、右ヒザの手術を受けて復帰してからは前に出ようとする意識が強くなりましたよね。ケガをしてから覚える相撲はたくさんあるし、故障を乗り越えたからこそ見られる景色がある。若隆景は休場中も腐らずに一から体を鍛えて、自分の相撲を見つめ直した。その結果が復活につながったのだと思います。

 改めて強調しておきたいのは、本場所を休みたくて休んでいる力士はいないということ。ケガをした力士なら誰もが、出るか休むかのはざまでギリギリまで葛藤している。夏場所を休場した力士たちも苦渋の決断だったはずです。その悔しい気持ちを糧にして、より強くなって土俵に戻ってきてもらいたいですね。それではまた!