【松本薫の野獣道(8)】世界で勝つために「野獣」になることを決めました。やっぱり一本を取る「美しい柔道」が最も好まれていて、2021年の東京五輪で金メダルを獲得した阿部きょうだい(阿部一二三、阿部詩)や歴代オリンピアンの一本勝ちは、みんなの憧れ。「一本こそが日本の柔道」なんです。でも、それは前回に、お話しした1%の天才しかできないんですよ(笑い)。
私は残り99%の凡人でした。天才と同じ柔道を目指したとしても、できないだろうなと感じていて「どうすればいいんだろうな」と考えた時に「一本を取る柔道」と「世界で勝つ柔道」をてんびんにかけてみました。本当にやりたいのは「一本を取る柔道」。でも、それだと「世界一」には手が届かない。だって99%の凡人ですから。そこで私が選んだのは「世界で勝つ柔道」でした。
それこそが「野獣」の原点なんです。1%の天才のヒットポイント(HP)を100としたら凡人のHPは90。なので何も対策をせずに畳に上がっちゃうと、普通に1%の天才が勝つじゃないですか。だったら天才のHPを90に下げた状態にすれば対等に戦える。さらに試合の中でHPを80以下に下げられれば、最後に私が勝つことができると考えたんです。
天才のHPを下げるため、相手を威圧する怖い表情、しぐさこそが「野獣」の戦い方。言ってしまえば、ひきょうな柔道かもしれません。でも外国の選手には何をするかわからない「野獣」の顔はかなり怖かったみたい。顔面でプレッシャーをかけながら相手の力加減や呼吸を崩していくんです。例えば目を鋭くするだけで相手に与える印象は全然違うものになります。にらみつけるだけで頭に血を上らせ「この野郎!」と向かってくる選手もいれば、ちょっと引く選手も。いろんなタイプがいるので、そこで心の波をつくるんですよ。
ガッと来るタイプは「始め」となった瞬間に力んでいるので、そこを狙っていました。逆に引いた相手は「始め」となっても絶対に来ない。だから先に仕掛けるとペースを握ることができる。最終的には「やりづらい」と思わせたところでちょこっと投げるみたいな(笑い)。でも一本は取れないので、指導や技ありで勝っていました。相手のHPを100から落としていくイメージですね。やっぱり人って「野獣」みたいに何も考えていないように見えるクレイジーなやつが一番怖そうに見えるんじゃないですか(笑い)。












