「ルフィ」などと名乗り広域強盗事件を指示した疑いがある渡辺優樹容疑者(38)ら4人から押収したスマートフォンのうち、解析が始まった一部はほぼ初期状態だったことが15日、分かった。警視庁は、通信アプリなどによる指示内容を隠すため、初期化した可能性もあるとみて調べる。実行役への指示はスマホ経由のため、デジタルデータの解析は重要だが、実はグループ犯罪の肝心なところはアナログ。だからこそ黒幕にはたどりつくのは困難だ。

 捜査関係者によると、4人がフィリピンの入管施設に収容されていた際に押収された計15台ほどのスマホやタブレット端末のうち、パスワードを特定し、画面ロックが解除できた数台の端末を調べたところ、容量がほとんど使われておらず、未使用の状態に近いものがあったという。

 警視庁は、強制送還された渡辺容疑者や今村磨人容疑者(38)ら4人を特殊詐欺事件に絡む窃盗容疑で逮捕、送検している。

 特殊詐欺事情に詳しい元暴力団関係者は「回収したスマホの一部は初期化されたものでしょう。しかし、ほかの一部は入管施設ビクタン収容所の誰かにワイロを渡して、新しいスマホにすり替えたんでしょう。スマホ・タブレットで入管施設でも日本のニュースをチェックできます。みんなは日本に送還される可能性を考慮していたはずです。初期化ならデータはある程度、復元できますから」と指摘する。

 渡辺と今村の両容疑者が収容所内で口裏合わせする動画が11日放送の報道番組「サタデーステーション」(テレビ朝日系)で公開された。一連の広域強盗事件の指示役「ルフィ」とされることを迷惑がる渡辺容疑者が、今村容疑者こそがルフィだと“自供”させようとした場面がある。また、今村容疑者はある時期、渡辺容疑者、藤田聖也容疑者(38)、小島智信容疑者(45)と距離を置いていた時期があるという。

「捜査陣はグループの指示役への指示役が誰か、黒幕が誰か、大枠はつかんでいますが、重要なのは物証と自白。実行役のスマホの解析は進んでいるそうですが、指示役のスマホからもそれと合致するデータが出ないと、立件は難しいでしょう。初期化ではなく、新スマホに取り換えていたら、かなり困難な状況になります。それでも、落としのプロと呼ばれる取調官というのは、決して力ずくで追い込むのではなく、容疑者との間に『この人間になら話してもいい』という信頼関係を築き、相手が逃げられないと感ずるに足る情報を真上から落とし、相手の“顔の立つ逃げ道”を作ることで、最後にそっと肩を叩くといいます」(同)

 デジタル解析と取り調べの両面で捜査は進んでいる。しかし、特殊詐欺グループのマニュアルでは、黒幕からの指示とカネの流れという、肝心なところをアナログにすることで、捜査の手が黒幕に及ばないようにしているという。

「指示役の黒幕から渡辺への指示と“カモリスト”は紙で送られていたそうです。紙は捨てれば証拠が残りません。日本での現金の回収は、回収役が公園の個室トイレに入り、実行役がドアの上から回収役に現金を渡し、絶対に顔を合わせないようにするんです」(同)

 さらに今回は国際間での現金のやりとりをする必要があった。

 同関係者は「女が現金の一部をフィリピンに持ち込んでいました。そして、他の現金は地下銀行で送金していました。地下銀行とは、銀行法上の免許を得ずに送金依頼されたカネを不正に海外に送金する闇の銀行です。利用者は日本側の地下銀行に現金を持ち込み、送金先を申告する。フィリピンの地下銀行側はプールしているカネから現金を送金先に渡す。だから、一瞬で“送金”できるわけです。何より正規の銀行ではないので、送金履歴をたどるのが難しい。マネーロンダリングにもなる」と言う。

 ルフィから日本の実行役への指示はデジタルデータが残っている可能性がある。しかし、黒幕から指示役ルフィへの指示、そして日本からフィリピンへの送金はデジタルデータとして残っていない。難しい捜査となりそうだ。