阪神からポスティングシステムでMLB移籍を目指していた藤浪晋太郎投手(28)がア・リーグ西地区のアスレチックスと1年契約で入団合意に達した。メジャー契約の好条件で海を渡る最速162キロ右腕は最高峰の舞台で期待通りの活躍を見せられるのか。MLB中継の解説者としてもおなじみの本紙評論家・前田幸長氏が自身の経験談も踏まえ、日米球界の相違点と成功の秘訣を語った。

【前田幸長・直球勝負】藤浪が入団するアスレチックスはチーム再建期の真っただ中で投手陣が手薄だ。昨季9勝で勝ち頭となった左腕コール・アービンと7勝の右腕ジェームズ・カプリーリアン、4勝ながらも球宴初選出された右腕ポール・ブラックバーンの3人はおそらく今季も先発ローテ確定だろう。

 今オフにアスレチックスは藤浪だけでなく、かつてエンゼルスやマーリンズなどでプレーし、昨季まで4シーズン在籍した韓国KBOのNCダイノスで通算53勝の好成績を残した33歳のベテラン右腕ドリュー・ルチンスキーを獲得している。昨年末の三角トレードでブレーブスから新たにチームへ加わった25歳左腕のカイル・マラーら若手成長株の先発候補もチーム内には数多く控えてはいるが、どの面々も「確定」とは断言しづらい。藤浪がスプリングトレーニングでアピールに成功すれば、先発4、5番手争いに入り込む余地は十分にあると言える。

 とはいえ、MLBは想像以上に生存競争が厳しい世界だ。40人枠には入っても「使えない」と判断されれば、先発ローテ入りどころか25人のロースターから外されることも当然あり得る。あらたまって言うまでもないだろうが、そんな群雄割拠の中で成功するためのキーポイントは「滑りやすい」と言われるMLB公式球へのアジャスト(順応)だ。これは米球界に挑戦する日本人投手なら誰もがほぼ通る道である。ほとんど問題にしなかったのは黒田博樹氏や田中将大ぐらいで、あのダルビッシュ有や大谷翔平でさえもMLB移籍当初は制球に四苦八苦した。かくいう私も、レンジャーズのマイナー時代は本当に戸惑った。

 不正投球に対するチェックもMLBはとにかく細かくて厳しい。プレートを踏みながら指をペロペロとなめるのはもちろんのこと、寒いからと手に息を吹きかけただけで球審に見つかれば即座に「ボーク」を宣告されてしまうケースも珍しくない。またMLBでは投手が試合中、球審から主に2~3イニングの割合で「手に何か松ヤニの類いのようなものを塗っていないか」と〝抜き打ちチェック〟を受ける。

 加えて今季からはMLBで「ピッチ・クロック」が本格導入される。走者がいない時は15秒以内、いる時は20秒以内に投球動作を始めないと1ボールがカウントされるという新ルールだ。このような日米の違いに直面し、藤浪はマウンドで余計なストレスを感じることが多々あるもしれない。だが当然、こうした情報は藤浪の耳にも事前に入ってそれなりの準備はできているはずだ。

 長い手足を武器に並の投手ではまず投げられないフォーシームを駆使する藤浪が、それだけに頼らず昨季の大谷のようにスライダーやスプリットを多投する割合も増やし、空振りを奪えるかどうか――。最後に技術的なことを言わせてもらえば、MLB流の引き出しを増やすことこそアスレチックス・藤浪がサクセスストーリーを歩むきっかけにつながるとみている。

(本紙評論家)