【取材の裏側 現場ノート】こんな安直な言葉で表すことが、正解かどうかはわからない。ただ、やっぱり〝すごかった〟というのが率直な感想だった。
2014年ソチ&18年平昌五輪金メダルでプロに転向した羽生結弦(27)が主催した初の単独アイスショー「プロローグ」(4日、横浜・ぴあアリーナMM)に足を運んだ私は、その覚悟に驚かされた。まさか目の前に試合時と同じ光景が広がっているとは思わなかったからだ。
「ただ今より6分間練習を開始します」。アナウンスが流れると、真剣な表情で滑り始め、ジャンプなどを入念に確認した羽生。「正直どういう反応をしていただけるか…」。アイスショーでは異例とも言える幕開け。不安もあったはずだが、ファンは試合さながらの準備に大興奮だった。「みなさんのために最高の演技をしたい」。羽生が言葉に発して伝えたワケではない。しかし、スタートと同時にファンは思いを感じ取ったのだろう。会場が1つになって盛り上がる姿、演技後のスタンディングオベーション。私はまるで過去に戻ったかのような錯覚に陥った。
この日の羽生は平昌五輪のフリーで演じた代表曲「SEIMEI」、ファンからのリクエストを受けた「レッツ・ゴー・クレイジー」、22年北京五輪のエキシビションで使用した「春よ、来い」など、8つのプログラムを演じた。「体力強化は本当に大変だった。普通は1つのプログラムに全力を尽くしきってしまうので、その後にまた滑ることは考えられなかった」。ほぼ90分間無休で滑る機会など、普通はありえない。それでも、当たり前のように滑り切り、トークコーナーではファンと一緒に盛り上がる。自らが企画、構成を練ったアイスショー。4日の朝まで微調整を繰り返した。「みなさんにお見せできるものが出来上がった」。妥協なき姿勢は健在だった。
常に全力を貫いてきたからこそ、多くのファンが魅力されてきた。会場はもちろん満員。7900人のファンが一挙手一投足を見守った。その様子は各媒体が報じている通りだ。その一方で、私は会場の外でも羽生の偉大さを肌で感じた。午後3時ごろに立ち寄った東京駅では、羽生の巨大広告の前で10人以上が記念撮影。さらに開演前の午後5時ごろには、会場周辺のトイレにも長蛇の列ができるなど、想像を上回る反響ぶりだった。
プロとして新たな一歩を踏み出した羽生は「プロだからこその目標みたいなものって具体的に見えていない」と本音を吐露しながらも、力強く言い切った言葉を最後に紹介したい。
「今できることを目いっぱいやって、フィギュアスケートというものの限界を超えていけるようにしたい。それがこれからの僕の物語になったらいいなって思います」
今後はどんなストーリーを描いてくれるのか――。私たちの知らない〝羽生結弦〟が見られる日を心待ちにしている。
(五輪担当・中西崇太)












