立憲民主党の野田佳彦元首相(65)が25日に国会で行った安倍晋三元首相への追悼演説が注目を集めている。かつて2人は国会の党首討論で丁々発止を繰り広げ、自民党が復権するきっかけとなった衆議院解散を約束した政敵同士だ。その野田氏から「勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん」と惜別の言葉が飛び出すと、一時、ツイッターのトレンド上位を関連ワードが占めた――。

「勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん」。この言葉に野田氏の惜別の思いが凝縮された追悼演説だった。

 2012年11月、それぞれ旧民主党と自民党の党首だった2人が党首討論で激突。衆議院解散をめぐって「ウソつき」呼ばわりされていた野田氏が「16日に解散します。やりましょう」と促すと、安倍氏が「約束ですね? 約束ですね? よろしいんですね? よろしいんですね?」と驚いたように言葉を繰り返した場面は、国会における2人の戦いの最大のハイライトだ。

 あれから約10年。その間に憲政史上最長の政権を築き、今年7月に凶弾に倒れた安倍氏の苦労を知る野田氏は「先人たちが味わってきた重圧と孤独を我が身に体したことのある1人として、あなたの非業の死を悼み、哀悼の誠を捧げたい」と追悼。さらに「再びこの議場で、あなたと、言葉と言葉、魂と魂をぶつけ合い、火花散るような真剣勝負を戦いたかった。勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん」と、二度と会えない故人への思いを明かした。

 野田氏といえば、もともと〝演説の名手〟として知られる。今回も党や政治信条の垣根を越えた追悼演説が中継されると、各方面から「感動した」「名演説だった」の声が続出。昭恵夫人も涙を浮かべるなど大きな注目を集めることとなった。

 そんななか、ツイッターで一時、トレンド1位になった「勝ちっ放しはないでしょう」の言葉にも注目が集まっている。

「菅義偉さんの弔辞もすばらしかったが、やはり聴衆の記憶に残るという意味では野田さんが一枚上手という印象。『勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん』の言葉は、多くの人の記憶に刻み込まれたはず。野田さんは11年に『どじょう内閣』で流行語大賞にノミネートされているが、関係者の間では『もしかして今年もノミネートされるのでは?』と早くもうわさされています」(永田町関係者)

 野田氏は11年8月の民主党代表選挙に立候補した際、詩人・相田みつをの詩を引用し、「どじょうはどじょうの持ち味があります。金魚のまねをしてもできません。赤いベベを着た金魚にはなれません。どじょうですが、泥臭く国民のために汗をかいて働いて、政治を前進させる」と力説。自らをどじょうに例えた名演説で民主党代表と首相の座を勝ち取り、その年の「ユーキャン新語・流行語大賞」では「どじょう内閣」がトップテンに入賞した。

「ユーキャン新語・流行語大賞」は例年11月に「今年の世相を表す言葉」として30語をノミネート。今年は令和初、史上最年少の三冠王を獲得したプロ野球ヤクルトの村上宗隆を称した「村神様」や安倍氏の「国葬」、さらには「円安」や「物価高」に加えて旧統一教会絡みの言葉も多くメディアで報じられた。

 ライバルは少なくないが、「勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん」は今年を象徴する事件につながるワード。選考基準も十分満たしているだけに、十分可能性はあるかもしれない。