カツオは南方の海で生まれ、黒潮に乗って北上し、三月が九州、四月が紀州、五~六月に伊豆~房総沖に達し、さらには金華山沖まで北上し、十月になると脂の乗ったカツオが東北沖より南下を始める。よって、本当に旨いカツオは脂が乗り切った「下りガツオ」「戻りガツオ」なのである。

 三代にわたって江戸(とくに東京の下町)に住むと「江戸っ子」の“勲章”が与えられるというが、「江戸っ子」はおっちょこちょいでお人よし、涙もろくて人情派、よくしゃべるが言語明瞭、意味不明瞭のことが少なくない。

「江戸っ子だい、神田の生まれだ、鮨食いねえ」とは「江戸っ子」の粋のよい口上だが、鮨やそばを食べる時は「口に入れたらあまりかまずにつるっと飲み込め」と言う。

 ある時、神田生まれで慶応大学ご卒業の立派な紳士に「神田(かんだ)なのに何でかんだらいけないのですか?」と尋ねたら、「あまりくちゃくちゃかんでいたら、口の中で腐って糞になるわい」という答えが返ってきた。正に江戸っ子の心意気だ。

「目には青葉 山時鳥 初鰹」(山口素堂)の初ガツオは季節のはしりとしての珍しさから、そそっかしい江戸っ子が金をはたいて無理に買って食べたもので、脂の乗った「戻りガツオ」ほどの旨さはない。

「初鰹 力んで買って 蚊に食はれ」は、そそっかしい江戸っ子が、蚊帳を質に入れてでも初ガツオを買ったことを面白おかしく表現している。

 同様の情景をうたった川柳に「初鰹 銭と辛子で 二度なみだ」というのがある。

 ◆石原結實(いしはら・ゆうみ)1948年、長崎市生まれ。医学博士。イシハラクリニック院長として漢方薬と自然療法によるユニークな治療法を実践するかたわら、静岡・伊豆でニンジンジュース断食施設の運営を行う。著書は300冊超でベストセラー多数。最新作は生島ヒロシ氏との共著「70代現役!『食べ方』に秘密あり」(青春出版社)。