【広瀬真徳 球界こぼれ話】春季キャンプも、はや3週間がたった。今年はどのキャンプ地も有観客開催。取材していた沖縄の各球場では2年ぶりにファンの姿が見られた。来場者数は新型コロナ禍前と比較すれば雲泥の差はあるものの、球場内にファンがいる、いないでは緊張感が異なる。選手に聞いても「観客席に誰かいたほうがいい意味で練習に気持ちが入る」という肯定的な意見が大半だった。声はなくとも、ファンの姿や視線は自然と選手を成長させる。その意味で新型コロナ禍の最中に有観客キャンプを行えた意義は大きかったと思う。

 同時に今キャンプで改めて重要性を感じたのは「ファンサービス」だ。時間とお金を費やしてキャンプ地に来てくれたファンに対し、練習を見学してもらうだけではやはり寂しい。キャンプ観戦の醍醐味はシーズンでは味わえない選手との気軽な「ふれ合い」。新型コロナ禍では容易に行えないとはいえ、厳格な感染対策を施せば少しずつ再開させてもいいのではないか。そんな思いを抱いて取材を続けていた矢先の今月7日、楽天が粋な計らいを見せてくれた。選手が直接ファンにサイン入りグッズを手渡すサプライズを行ったのである。

 当日は平日ということもありファンはまばら。ぱっと見で来場者は数十人程度だった。それでも石井監督が「せっかく有観客で平日に集まってくださった方々なので。少しでも、ほっこりするようなことがあれば」とランチタイムを活用したファンサービスを提案。選手を代表して選手会長の則本と松井裕がファンに開放された三塁側芝生席に入り、抽選に当たった人たちに直接、サイン入りの帽子をプレゼントした。当然、ファンは大喜び。当選した一人は「本当に来てよかった。まさか選手からもらえるなんて…」。興奮気味に話す姿が印象的だった。

 この2年間、ほとんどなかった球場でのこうした選手とファンの直接的なやりとり。感染対策の観点から考えれば「まだ早い」という意見があるかもしれない。だが、今回の楽天のように手の消毒、マスク着用を徹底した上でのファンサービスであれば感染リスクは低い。球団側のやる気さえあれば不可能なことではないはずだ。

 今は多くの球団がオンラインを中心としたファンサービスに力を注いでいるが、選手と間近でやりとりできるイベントは格別。ファンの思い入れも一層強くなるだろう。日本ハムも新庄監督がキャンプ序盤に来場した子供たちに帽子をプレゼントしていた。こうした直接的なファンサービスの流れ。やりたくても我慢している球団もあるだろうが、球界全体に広がることを願いたい。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心にゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。