本当に「誤審」だったのだろうか。日本相撲協会は29日、東京・両国国技館で大相撲名古屋場所(7月7日初日、愛知県体育館)の番付編成会議を開いた。先の夏場所では審判による不可解な判定や場内説明の言い間違いなどで力士らが混乱。この日、審判部長の阿武松親方(57=元関脇益荒雄)は一連の不手際を「私の修業不足」と謝罪した。思わぬ形でクローズアップされた今回の「審判問題」。本紙が改めて検証すると――。

 この日の番付編成会議後に阿武松親方は「本当に私の修業不足。言葉足らずで反省したい」と謝罪した。その一方で「結果においては、間違いがなかった」と自らが下した判定そのものには自信をのぞかせた。先の夏場所では審判団から物言いがついた際の場内説明で、審判長の阿武松親方が言い間違いをする場面が目立っていた。

 その流れの中で迎えた13日目(24日)。関脇栃ノ心(31=春日野)と幕内朝乃山(25=高砂)の一番で“疑惑の判定”が発生した。行司が軍配を上げた栃ノ心の右足かかとが、それ以前に俵から出ていたと物言いがつき、審判団が約6分間にわたって土俵上で協議。テレビ中継の映像では栃ノ心の右足かかとは土俵からわずかに浮き、出ていないようにも見えたが、軍配差し違えで朝乃山の勝ちとなった。

 この取組は、栃ノ心は大関復帰がかかる10勝目、朝乃山は優勝がかかる大一番でもあった。このため、インターネット上などを中心にファンからは「誤審」との指摘が続出。28日の横綱審議委員会では「(委員から)物言いがついた相撲で審判長の説明を、もっと分かりやすくしてほしいという意見が出た」(矢野弘典委員長)として、八角理事長(55=元横綱北勝海)に対して異例の改善要望が出される事態となった。

 もちろん阿武松親方には、それまでに言い間違いなどのミスがあったことは確か。ただ、栃ノ心―朝乃山の一番に関して言えば、明らかな「誤審」とまでは言い切れない。実際にテレビ中継とは別角度からは、かなり際どく映っている画像もある。

 そのうえで、土俵下の間近で見ていた審判の判断は「(右足が)出ているように見えた」。ビデオ係からは「出ていないように見える」。大相撲の場合は、現場の土俵下にいる審判の判断が最優先で、別室にいるビデオ係は「補足」という大原則がある。

 一方で約6分間の協議の際、審判団からは「多数決」で判定を決める案も出された。しかし、ここで阿武松親方は「見えている親方が限られている中で、多数決はあり得ない」との理由で却下したという。審判長として、あくまでも「現場優先」の原則を貫いたとも言えるのだ。それだけに同親方が判定に自信を見せたのもうなずける。

 その阿武松親方は「改善するところは改善させていただいて、次に向かっていきたい」と話した。いずれにせよ、今回の一件は大相撲における勝負判定のあり方が問い直される形となった。今後、どう対処していくのかにも注目が集まる。