【オーストリア・キッツビューエル8日(日本時間9日)発】ほろ苦い再始動となった。男子テニス世界ランキング34位の錦織圭(30=日清食品)が「ジェネラリー・オープン」のシングルス1回戦で約1年ぶりの実戦復帰を果たしたものの、同47位のミオミル・ケツマノビッチ(21=セルビア)に6―4、4―6、2―6の逆転負け。完全復活はまだ先のようだが、随所に錦織らしさも光った。久々の復帰戦を見た専門家の分析は――。

 錦織は右ヒジ故障のため昨年8月から長期欠場。復帰目前の先月には新型コロナウイルスに感染し、出場予定だった全米オープン(開催中)を欠場していただけに、再始動戦が注目された。
 1年ぶりの復帰舞台は人数制限で観客が入ったセンターコート。第1セットは序盤から飛ばした。第1ゲームをフォア、バックのクロスのウイナー、ボレーなど軽快な動きでキープすると、勢いに乗って一気に5ゲームを連取。しかし、その後はストロークでミスが目立ち始め、立て続けに4ゲームを落とした。なんとか第10ゲームをブレークしてセットを奪ったが、流れは相手に傾いた。

 第2セットではやや疲れを見せてダブルフォールトを連発。このセットを落とした錦織は最終セットも第1、3ゲームをブレークされる。ラリーでの打ち損じ、狙ったウイナーがアウトになる展開が重なった。結局、終盤に力尽きて逆転負け。復帰戦を白星で飾れなかった。

 この試合を見たGAORAテニス中継解説者の佐藤武文氏(49)は「全体を通してサーブでリズムを崩していました」と分析。この日の第1サーブ成功率は53%、エースは1本。ケガ明けからサーブ改良に取りかかったが、合計7ゲームもブレークされたように、実を結んでいない。また、実戦から遠ざかったせいかミスショットも目立った。佐藤氏は「相手との間合いの詰め方を見て、試合勘が戻っていないと感じた。ネットに出た時にパッシングで逆襲されたり、フォアのスライスにも緻密さがなかった」と評した。

 とはいえ、1年ぶりの試合の中で錦織らしいプレーがあったのも事実。佐藤氏はこんな好材料を挙げる。

「サーブ&ボレーは良かったと思います。それに序盤からずっと回り込んでフォアの逆クロスを使っていましたが、ファイナルセットの劣勢の場面ではストレートに変えた。使っていないコースを使いだし、別の引き出しを開けたところなんかは、さすがでしたね」

 錦織は試合後「大事なところで(点を)取れず、ブランクを感じさせる試合というか、リズムに乗れないところがあった。もう少し試合を重ねれば、自分の感覚をつかめてくる」と語った。今大会と同じクレーコートで開催される「全仏オープン」(27日開幕)に向けて、今は試合をこなすことが重要。今大会はダブルスにもエントリーしており、時間とともに本来の〝ケイ〟が戻ってくるはずだ。