池江璃花子 594日ぶり感動の復帰戦「舞台裏」を追う

2020年08月31日 11時00分

1年7か月ぶりのレースを終えた池江は号泣。日本中に感動を呼んだ(代表撮影)

 白血病で長期休養していた競泳女子の池江璃花子(20=ルネサンス)が東京都特別大会50メートル自由形(29日)で復帰し、大きな反響を呼んでいる。10月の日本学生選手権(インカレ、東京辰巳国際水泳場)の参加標準記録(26秒86)を突破する26秒32をマークし、594日ぶりの実戦は上々の結果。本来であれば今夏開催されるはずだった東京五輪の“主役候補”が苦難を乗り越えて第一歩を踏み出したが、サポートしてきた周囲もひと安心。日本中に感動を呼んだ復帰レースの舞台裏を追った。

 アスリートとして止まっていた時計の針がようやく動きだした。昨年1月の三菱養和スプリント以来、1年7か月ぶりの復帰戦となった池江は組1位、全体5位で文句なしの泳ぎを披露。新たにコーチを務める西崎勇氏(41)の「“アスリート池江璃花子”ではなく、“いち池江璃花子”として楽しんで」との助言に最高の結果で応えた。

 昨年2月、自国開催の五輪を翌年に控えたスポーツ界に衝撃が走った。個人11種目の日本記録を持ち、誰もが主役になると信じていた日本のエースによる突然の病名公表だった。それでも、想像を絶する闘病生活を必死に乗り越え、今年3月には406日ぶりにプールに入り、20歳の誕生日を前に7月には練習を公開できるまで回復。1年延期になった五輪には目を向けず、インカレと2024年パリ五輪を目標に変えた。レース後、込み上げる感情を抑え切れなかったのは、常に見守ってくれたマネジャーの涙が理由だったようだが、同様にサポートを続けたスタッフには安堵が広がっていた。

 今回、池江が着用した水着は自身がブランドアンバサダーを務めるミズノ「GX・SONIC V」で、同社が五輪を前に昨年11月に発表した最新モデル。メーカー関係者は「女子に関しては肩までひもで覆われているので、胸下から下半身に向かってクロス状に生地を配置して腹部の締め上げを強くしています。泳いでいると疲れて腰が落ちてくるのでストリームライン(水の抵抗を減らした姿勢)を取りやすくしました」と特長を説明。これは池江が「ラスト15メートルは体が疲れて動かなくなっていった」と証言しながらも目標タイムを上回ったこと、日本代表の平井伯昌ヘッドコーチ(57)の「加速していくところは往年の泳ぎの片鱗が見えた」との評価からも“水着効果”があったと考えてよさそうだ。

 当初は新型コロナウイルス感染予防の観点から担当者が会場入りできるかが不透明で、前出関係者は「実際に着て泳いだ感想が分からなかったり、選手と話ができないのは難しい」としていたが、入場許可が下りた上に好結果につながり「無事に泳いでもらえて本当に良かったです」と胸をなで下ろした。

 一方、この「GX――」は1月に一般発売されたものの、4月の日本選手権は中止、今夏の五輪が延期となり、ブランドアンバサダーの選手が着用しながらアピールする機会がほとんどなかったという。さらに16年リオ五輪男子400メートル個人メドレー金メダルの萩野公介(26=ブリヂストン)が17年に他社と契約してからは池江が中心となっていただけに、“看板選手”の華麗なるカムバックは何より心強い。それでも、周囲からは「自分の体を最優先に」と無理のない範囲での復帰を期待する声が上がっている。

 不屈のヒロインはインカレ出場へ「この1年やってきた思いを爆発させて目標をかなえたところを見ていただけたら」と力を込める。パリまで続く復帰ロードは、上々のスタートとなった。