【フィギュアスケート全日本選手権・回顧録1】(2012年12月20~23日、札幌・真駒内セキスイハイムアイスアリーナ)
大会前、ファンは2大スターの躍動に思いを巡らせていた。直前のグランプリ(GP)ファイナルを制覇し、エースの座に君臨していた高橋大輔。その背中を追いかけ、まばゆいばかりの才能を開花させていた羽生結弦。NHK杯は羽生、ファイナルは高橋に軍配が上がり、これがこの年3度目の対決だった。
18歳になったばかりの羽生は次代のエースとして期待され、その輝きは誰の目にも明らかだった。他にも小塚崇彦、町田樹、無良崇人、織田信成ら豪華メンバーが名を連ねたが、大会当日のフジテレビ番組欄には「初優勝へ! 急成長の羽生結弦が高橋大輔と直接対決!」の文字。全日本5Vのエースと若きプリンス――。2人の交錯は緊張感と高揚感を生み出し、全日本史に残るドラマを演出した。
ショートプログラム(SP)で首位に立ったのは羽生だった。「緊張で脚が震えた」。最終滑走という重圧がのしかかったが、名プログラム「パリの散歩道」のブルース曲に乗せ、全ジャンプで加点を引き出す圧巻の演技を披露。暫定トップに立っていた高橋はモニターで18歳の演技を見詰め、拍手を送るしかなかった。97・68点。自己ベストを叩き出し、2位の高橋(88・04点)に10点近く差をつけた。
迎えたフリーでは高橋が意地を見せた。2つの4回転ジャンプを構成に入れて挑み、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も成功。長きに渡って日本を牽引してきた男の円熟味がスケーティングににじみ出た。192・36点の高得点をマークし、逆転を信じて最終滑走の羽生を待った。しかし、わずかな希望は4分半後に打ち砕かれることになる。
羽生は冒頭の4回転トーループ、サルコーを着氷。いずれも体勢を崩しながらこらえ、執念を感じさせた。ミュージカル曲「ノートルダム・ド・パリ」の旋律を全身で表現し、最後まで演じ切った。フリーは高橋に及ばず187・55点。しかし、合計285・23点の表示が出た瞬間、羽生は汗だくの顔を天井に向けて相好を崩した。高橋の猛追を封じ込め、激闘の末に初の栄冠を手にした。
試合後、羽生は「正直まだ信じられない感じですが、ショートの差を何とか持ちこたえることができた」と笑顔。そして熱戦を演じた高橋について、こう語った。
「ずっと先輩の背中を追いかけてきた。少し追い付いたかな」
その高橋は通路で笑みを浮かべ、18歳を称えた。羽生の首からは「先輩に追いついた重たいメダル」がかけられた。前年3月、東日本大震災に被災し、避難所から夜空を眺めた。真っ暗な中に一筋の光を見た少年は1年半後、一番星となった。












