東京パラリンピック陸上女子マラソン(T12)金メダル・道下美里(44=三井住友海上)の人生を変えるきっかけの1つとなった〝ある言葉〟をご存じだろうか。

 膠様滴状角膜ジストロフィーの影響で右目を失明し、左目の視力もほとんど失った道下だが、2008年から本格的にマラソンを始めると、16年リオデジャネイロパラリンピックで銀メダルを獲得した。今夏の東京パラリンピックでは金メダルに輝き、9日に都内で行われた「2021 毎日スポーツ人賞」でベストアスリート賞を受賞。「本当にたくさんの方が祝福の言葉をかけてくださった。いろんな方とのつながりがどんどん広がっているので、この金メダルは出会いを運んでくれるメダルだなって。金メダルを取ってよかったなって改めて感じました」と声を弾ませた。

 道下のトレードマークと言えば満面の笑み。授賞式でも笑顔が印象的だったものの、病気で視力が落ちていく中で「私だけがこんな思いをしなければいけないんだ」とネガティブな感情を抱いていたこともあった。

 しかし、目の手術で入院生活を送っていた中学時代に転機が訪れた。病院内で仲良くなったある男性が「乗り越えられない試練を神様は与えない。君は選ばれた人なんだよ」と言葉をかけた。道下は「正直それを素直には受け入れられなかった」と振り返りながらも「なんかそういう風に前向きには思えないけど、そういう風に思えるのはすごいなって。私もいつかそういう風に思えるようになりたい」と気持ちに変化が芽生えたという。

 実際にさまざまな壁を乗り越えてきた道下。「今だったら素直に思えるかもしれないですね。やっぱ同じような経験というか、自分が行き詰まった経験を何度もしてきて、それを乗り越えるたびに強くなっている自分がいるから」。心技体で大きく成長し、自国開催の大舞台で多くの方に感動を届けた。

 表彰式後の会見では5年前の悔しさをバネに、リベンジに成功した今年を「結(むすぶ)」と表現した上で「いろんなことが結集して、この5年間やってきたことが1つの糸になった。そして、さらに紡いでいけるように頑張ります」と力強く宣言。持ち前の〝道下スマイル〟でこれからも走り続ける。