東京五輪の1年延期でランニングシューズは“戦国時代”に突入するのか――。ここ数年、陸上長距離界では厚底シューズが旋風を巻き起こしている。1月の東京箱根間往復大学駅伝(箱根駅伝)では、出場210人中187人の選手がナイキの「ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」(税込3万250円)を着用。約90%という圧倒的なシェアを誇っていたが、ここにきて各メーカーが新作モデルをこぞって発表。シューズ界の勢力図が大きく変わりそうな雰囲気だ。

 総合スポーツメーカー大手のミズノが新作の長距離用シューズ「ウエーブデュエルネオ」(税込み2万5300円)を発表。ヒール部のソール厚2・3センチという“薄底”ながら、独自開発した新素材を使うことで通常30~40%程度の反発力が56%に向上したという。

 7月中旬から全国発売となる新商品のオンライン会見に登場したリオデジャネイロ五輪4×100メートルリレー銀メダリストの飯塚翔太(29=ミズノ)は「反発力があるので、疲れたときに足が上がってくれる。(靴底の)厚さもないので(足裏の)感覚を繊細に感じられる」と、性能に驚きの表情を見せたが、カギはこの部分にありそうだ。

 ナイキの「ヴェイパーフライ」シリーズはソールの厚さが世界陸連(WA)の規定ギリギリの4センチ。従来のシューズでは考えられないほどの厚みを持つため、爪先部分から着地する「フォアフット」と呼ばれる走法の選手に向いているとされ「人を選ぶシューズ」という評価もあった。

 だが、ミズノの開発担当者が「自分の感覚のまま操ることができる」と自信満々で語る新シューズは走法を選ばない万人向け。試し履きした選手が飯塚と同じような感想を持てば、今後、ナイキから乗り換えるランナーが続出する可能性も十分にありそうだ。

 もちろん、他メーカーも手をこまねいているわけではない。アシックスは6月26日に新作「メタレーサー」(税込み2万2000円)を発売。「ヴェイパーフライ」と同じようにカーボンプレート内蔵の新シューズは「店頭の消化率も良く、品切れを心配しています」と広報担当者がうれしい悲鳴を上げるほど、売れ行きは好調だという。

 さらにアディダスは6月30日に5本骨状のカーボンバーを搭載した「アディゼロ アディオス プロ」(税込み2万7500円)と、カーボンプレートを搭載した「アディゼロ プロ」(税込み2万4200円)の2モデルを投入。広報担当者は「他社さんの動向は一旦置いておいて、アディダスとして日本人向けのシューズを開発する中で生まれたものです」と冷静な口ぶりも、並々ならぬ決意を見せた。

 WAではシューズについて「発売から4か月以上経過していること」も規定しているため、今夏に東京五輪が開催されていれば、晴れの舞台に間に合わなかったシューズたち。ニューバランスも「フューエルセル」シリーズの新作「フューエルセル プリズム」(税込み1万3200円)を1日に発売と、各メーカーほぼ同時期の新モデル投入は“打倒ナイキ”でスクラムを組んでいるようにも感じられる。

 果たして来年の箱根駅伝、そして来夏の五輪本番では「ナイキ1強」の勢力図は塗り替えられているのか。これまで以上に選手の足元には注目したい。