【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】タイ・バンコク西部の大寺院「ワット・パクナーム」は、18世紀末に一時期首都だったトンブリー地区のパーシーチャルーン運河沿いにある。日本人旅行者がよく滞在するシーロム地区からタクシーで20分ほど。創建はアユタヤ朝時代の1488年から1629年の間(正確な年は不明)で、敷地内には仏堂や仏教関連の図書館、僧房などが建ち並び、僧侶や尼さんが行き来する。高僧として知られた故プラ・モンコン・テムニー師に縁ある寺院としても知られ、師の座像前には地元参拝客が絶えない。

 そんな場所には目もくれず、日本人観光客が群がっているのは境内にそびえる巨大仏塔。6年前に建てられた高さ80メートルの「マハー・ラチャ・モンコン」で、塔の先端には100キロの金塊で作られた宝珠が飾られている。塔内部は博物館で1~3階には仏教美術品が並ぶ。

 問題は最上階の5階。エメラルドに輝く仏塔が安置され、その上部を覆うドーム状の天井には壮大な仏画が描かれ神秘的なのだが、ここが近年“インスタ映えスポット”として大人気なのだ。「見物客はほぼ全員日本人で、ちょっと恥ずかしいくらい。みんなスマホで写真を撮り、その場でSNSにアップしてます」とは実際訪れた旅行者。

 カメラ映りを気にするあまり、マナーの悪い日本人だらけだという。

「天井画をバックに自分も映り込もうと、静かな寺院で大騒ぎする若者が多い。跳びはねている一瞬を撮ろうとジャンプを繰り返したり、奇声を上げたり。ライブ配信しているのか、ブツブツつぶやきながら塔内をうろつく怪しい日本人も見た。特に8月と9月、夏休みを利用してバンコクに来た大学生の評判がひどい」とは現地在住邦人。

 ある女性旅行者も「祈りをささげているタイ人参拝者の隣で大声を上げ、写真を撮っていたから、同じ国の人間として本当に恥ずかしかった。お寺であり、神聖な場所だということが、彼らは分かっていない」と嘆く。

 寺院側はここ1~2年で急増した日本人観光客のため、日本語のパンフレットを作ったり、日本語の案内を境内に設置したり、とりあえずは歓迎してくれている。だが、素行不良日本人が増えるようなら、それもいつまで続くか分からない。

「タイ人は表立って批判したり怒ったりはしてないが、かなりあきれてる。寺院なのに短パンやサンダル、ノースリーブ、ミニスカートなど露出過多な服装で訪れる日本の若者が多いことにも、地元民は眉をひそめてる」(前出邦人)

 寺院名でインスタ検索すると、確かにおバカ写真がチラホラ。しかも顔出し。「私がマナーの悪い日本人です」と言ってるようなものだ。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「おとなの青春旅行」(講談社現代新書)。