【取材の裏側 現場ノート】新日本プロレスのグレート―O―カーンが女児を暴漢から救った出来事は、大きな反響を呼んだ。

 オーカーンは3月29日に神奈川・川崎市内の武蔵小杉駅構内で、泥酔した男性に迷惑行為を受けていた女児を救出。中原警察署から感謝状を贈られた。

 リング上での極悪非道・傍若無人な振る舞いからは想像もつかない心優しく勇敢な行動には、恐怖で泣いていた女児に「怖かったよな。パンケーキ食うか?」と呼びかけた〝神対応〟も加わり、本来のオーカーンの人生およそ5回分以上の称賛の声が各方面から集まった。個人的には女優の黒木メイサさんがインスタグラムで「プロレス見たくなった」「オーカーンさん。ありがとう」と投稿していたのがスマッシュヒットだった。

 暗い世の中を明るく照らした今回のニュースだが、最初に目にした時に戸惑った人も少なくないのではないか。というのもオーカーンのお手柄を第一報で報じたのは東京スポーツであり、なおかつ記事の配信が4月1日のエープリルフールだったからだ。

 実は今回の事件、発生翌日の3月30日に取材ができており、本来であれば31日に掲載予定だった。ところがそこから紆余曲折があって、記事にするタイミングが1日だけ遅れてしまったのだ。天地神命に誓うが、決して狙ったわけではない。

 一年で一日だけ嘘をつくことが許される日に、東スポが嘘のような本当の話を報じたのだから、混乱を呼ぶのも無理はない。当日のネット上にはほほ笑ましい嘘が氾濫。そこに「オーカーン」「女児救出」「パンケーキ」とあまりに異色な単語が組み合わされた記事が出ているのだ。身内の新日本の選手からさえ「絶対に嘘だと思った」「ディティールが細かすぎて、こんな悪質な嘘をついて大丈夫かなと心配した」との声が上がり、オーカーンからも「エープリルフールにパンケーキの記事を載っけたから、全てが嘘っぽくなっちまったじゃねえか」と叱責を受けた。このような奇跡的な間の悪さも、オーカーンの魅力の一つと言っても過言ではない気がする。

 弁髪に髭面の巨体が警察署内で感謝状を受け取っている姿もかなりパンチが効いていた。その光景を見て記者の脳裏によぎってしまったのは、今回の事件から日もたたないうちにオーカーンが警察から職務質問を受けるという〝オチ〟だった。体格のいいプロレスラーは街中にいるとかなり目立つ。小島聡もつい先日、職務質問を受けたことをSNSで明かしている。

 無礼を承知で「今度職務質問にあったら、ぜひ教えてください」とお願いすると、オーカーンは再び激怒。「たわけが! 余はこれまで生きてきて一度たりとも職務質問など受けたことはないわ! 処すぞ!」

 オーカーンも語っていたように、今回の事件では被害者の女児が近くにいた大人に助けを求めたことが事件の早期解決につながった。本当に勇気ある行動だったと思う。助けを求める相手があの風貌とあってはなおさら勇気が必要だっただろうに…と思っていたのはどうやら記者だけだったようで、別にオーカーンは街を歩いていても、全く不審者には見られないらしい。純粋無垢な子どもや日々治安を守る警察官から見れば「帝国の支配者」としてのオーラが発せられているのかもしれない。もっと人の内面を見る目を養わなければ…と深く反省する一件となった。

 そのオーカーンは9日両国大会で新日本初タイトルとなるIWGPタッグ王座を奪取した。注目を集めるタイミングで結果を出したのは見事の一語。プロレスを取材している記者として〝帝国書記官〟として、さらなる活躍を期待している。(プロレス担当・岡本佑介)