【新日本】試合開始直前に中止 レスラーと観客を守った「英断」に称賛集まる

2020年08月14日 06時15分

宇和島市総合体育館

 業界の盟主に激震が走った。新日本プロレスは13日に開催予定だった愛媛・宇和島市総合体育館大会を急きょ、中止した。出場選手1人が発熱の症状を訴えたためで、団体側は協議の結果、試合開始直前に中止を決定。観客、選手の安全確保を最優先した団体側の英断にファンからは称賛の声も上がったが、今後に向けては予断を許さない状況となっている。

 複数の関係者によると、当該選手が発熱の症状を訴えたのは試合開始3時間前の午後3時すぎ。団体側はまず当該選手を他の選手やスタッフと隔離し、すぐにスタッフが運転する車で現地を離れ、そのまま公共交通機関は使わずに帰京。都内でPCR検査を受けることになった。車も、選手が乗る座席の周囲をビニールシートなどで覆い、完全隔離された状態での移動だった。

 一方、団体側は開催か中止かを協議。ひとまず午後4時30分に予定通り開場し、観客を受け入れた。その後もぎりぎりまで協議が続くドタバタ劇だったが、午後6時の第1試合開始直前にリングアナが急きょ中止をアナウンス。会場には700人以上のファンが詰めかけていたが、ほとんどの観客が団体の判断を尊重したようで大きなトラブルもなく、帰宅の途に就いた。

 新型コロナウイルスの影響が続く中とあって、難しい判断を迫られたのは確かだが、ファンからは「この判断はなかなかできるものではない。素晴らしい」「何かがあってからでは遅い」「この英断を支持します」と団体側の動きを高く評価する声が多数上がった。当該選手の健康状態を心配するファンも多く、一部には「この判断を受け入れた宇和島のファンも素晴らしい」といった声もあった。

 選手としても地方のファンに試合を見せたいところだったが、それもかなわなくなった。飯伏幸太(38)は自身のツイッターに「こう言うときこそみんなの前でプロレスを魅せたかったけど、新日本プロレスは最善の判断をしたと思っています。また戻って来ます必ず!」(原文ママ)と投稿。団体の判断の正しさを示すとともに、近い将来の宇和島でのファイトを約束した。また、ハロルド・メイ社長(56)も同日、公式サイト内の自身のコラムを更新。観客の安全確保を最優先に考えた結果の中止を強調した上で「お時間を割いて暑い中会場に足を運んでくださっていたお客様、本当に申し訳ございません。試合結果を楽しみにされていた皆様にも深くお詫び申し上げます」と謝罪した。

 新日本プロレスは新型コロナウイルス感染拡大による政府からの要請により、3月1日から53大会の開催を自粛。6月上旬に「興行における新型コロナウイルス感染症対策ポリシー」を作成し、同15日に無観客で興行を再開した。7月11日の大阪城ホール大会で緊急事態宣言後、初の有観客試合を再開。その後も対策を徹底し、屋外開催のビッグマッチとなる明治神宮野球場大会を29日に開催することも発表していた。

 ウィズコロナの状況下で、各スポーツ団体が大会や興行開催の可否の判断について難しい選択を迫られる中、新日本プロレスの迅速な立ち回りは称賛に値する。とはいえ、次に予定されている16日の静岡大会の開催は不透明。26、27日の東京・後楽園ホール大会を挟んで29日の明治神宮野球場大会というスケジュールにも影響を及ぼしかねないだけに、まだまだ安閑としてはいられない。

【危機意識が低かったJリーグ】

 今回の新日本プロレスのケースと状況が似ているのが、1日に行われたサッカーJ1のFC東京―鳥栖(味スタ)の一戦だ。

 この試合の前日、鳥栖の選手に発熱者が出て、試合前までにチームからは離脱。鳥栖側から連絡を受けたFC東京側はJリーグ側に判断を求めた。だがJリーグ側は新型コロナウイルス対応ガイドラインに基づき、試合開催を要請。試合後、FC東京の長谷川健太監督(54)は「安心を担保できない中で試合をやらせるのは考えてもらいたい」と会見で訴える事態にまで発展した。

 年間通して行われるサッカーのリーグ戦と、プロレス団体の地方興行という規模の差が判断のスピードの差になったという見方もできる。ただ、鳥栖はこの後、金明輝監督(39)が新型コロナウイルスに感染していたことが11日に判明。体調に違和感があった8日の鹿島戦でも指揮を執り、選手、スタッフ計10人の感染も明らかになるなどクラブ全体の危機意識の欠如は明白。新日本との意識の差は顕著だ。

 選手やスタッフ、さらにファンを守った新日本は、今の時代のスポーツ団体のあるべき姿を示したといえそうだ。