モンスターの原点とは? 世界バンタム級で日本初の3団体統一王者(WBAスーパー、IBF、WBC)となった井上尚弥(29=大橋)が最強ロードを突き進んでいる。7日の統一戦で前WBC王者ノニト・ドネア(39=フィリピン)に2回TKOで圧勝したシーンは世界に衝撃を与えた。いったい、この強さはどこからくるのか。改めて井上の幼少期をひもとき、無敵ボクサーの秘密を探った――。

 井上は世界を震撼させた瞬殺KOから一夜明けた8日、所属の大橋ジムで会見し「体に全然、痛みがない」と第一声。世界戦翌日とは思えない無傷の顔で「4団体統一に向けて、この感覚のまま練習に入りたい。今からでも再開が可能な体です」と言い切った。かねて井上は35歳での引退を公言。すでに20代ラストイヤーに入る中、「まだ強くなります。今はピークではない」と力強く語った。

 もはやバンタム級では歴代最強と言われ、最も権威ある米リング誌のパウンド・フォー・パウンド(体重差がないと仮定した場合の最強ランキング)で現在3位。世界では、いずれは1位になるとの見方も広がっている。日本ボクシング界が生んだ「最高傑作」は、どのようにしてでき上がったのか。井上のフィジカル面を指導する元世界3階級制覇王者の八重樫東トレーナーは次のように指摘した。

「彼のすごいところは状況判断力。0コンマ何秒の間に、相手がどう来るかを鮮明にイメージできる。『人を見る』ことにたけていて、要領がいい。きっと幼少時に培ったんだと思う。尚弥は僕と同じ3きょうだいの真ん中。親という絶対的な存在がいて、姉と弟に挟まれた関係で、どううまくやるか。その家庭環境の中で状況判断力を身につけたのではないか」

 そこで、モンスターを育て上げたトレーナーの父・真吾氏を直撃。八重樫氏の分析をぶつけると「それはあるかもしれない。小さい頃からやんちゃで活発だったけど『何をしたら怒られるか?』『どのレベルまでやったら怒られるか?』を周りを見ながら学習し、先回りして行動していた」と振り返る。

 普段は温厚ながら、ボクシングになると怖い存在だった真吾氏。一般的にはマイナスとされる「親に怒られないように…」という動機こそが、モンスターの強さの礎となったようだ。真吾氏によれば、こういった少年時代の思考は「ボクシングに生きている」という。

「詰め将棋のように相手が何を考えているかをイメージし、どうフェイントをかけて〝裏の裏〟を突くか。その一瞬の判断力と引き出しの多さにつながっていると思う」

 もちろん、世界一のパンチ力、スピードなどは血のにじむような努力のたまもの。しかし、日々のトレーニングだけでは身に付かない総合力は〝尚弥少年〟が無意識のうちに作り上げたというわけだ。いずれにせよ、モンスターの強さが一朝一夕に生まれたものでないことは確か。今後どの階級で戦うにせよ、〝並の世界王者〟ではとても太刀打ちできなさそうだ。