千葉・南房総市の住宅からオオカミ犬1頭が脱走し、警察が行方を捜索している。なじみがないうえに「オオカミ犬」という名前のインパクトから、大きな注目を集めている。中にはUMA(未確認生物)と思う人もいるというが、そもそも「オオカミ犬」とはどんな生き物なのか? 専門家に話を聞いてみた――。

 14日午後7時過ぎ、南房総市の住民から警察に「大型犬が徘徊している」との通報があり調べたところ、近所の60代男性が飼育していたオオカミ犬4頭のうち1頭がいなくなっていることが明らかになった。逃げたのは体長75センチ、体重40キロほどある焦げ茶色のメスのオオカミ犬で、14日夕方にフェンスで囲った自宅の庭から脱走したという。オオカミ犬という聞き慣れない名前もあって、テレビ各局のニュース番組が敏感に反応。ネット上でもにわかに注目を集め始めている。本紙は7月11日付の1面で、福島県天栄村鳳坂峠で発見された、クマなのかイヌなのか種不明の「ベアドッグ」の存在を報じた。今回も日本では絶滅したオオカミの存在自体がUMA級だが、果たしてオオカミ犬とはどんな生物なのか? オオカミ犬に詳しい「ハイブリッド ウルフ ジャパン」の代表に聞いてみると――。

「オオカミ犬とは、オオカミとイエイヌを交配させて生まれた雑種のことで、『ハイブリッドウルフ』とも呼ばれる。オオカミにシェパードやハスキー、マラミュートを交配して第1世代が生まれ、今はそのオオカミ犬同士の交配も進んでいる」

 名前に「オオカミ」と付くので危険なイメージを持たれやすいが、「そもそもオオカミは臆病で警戒心が強い性質がある。オオカミ犬も人を避ける傾向にある」

 そのため、もし街中で遭遇しても、人を襲うことは考えにくいという。

 1頭数十万円から100万円を超えるというオオカミ犬だが、その大きさはオオカミ譲りの超ビッグサイズ。通常、脱走できないように二重扉を設けた犬舎で飼育するという。

 なじみのない「オオカミ犬」と聞いて新種のUMAを思い浮かべた人もいたようだが、ごく普通に存在しているのだ。生物学的にイエイヌはオオカミの一亜種とする見方もあり、交配したら雑種のオオカミ犬が生まれるのは、むしろ必然だという。

 一方で、異種間同士のハイブリッドも世の中には数多く存在する。例えば父がライオンで母がトラだとライガー、逆に父がトラで母がライオンだとタイゴンと呼ばれる。また、父がライオンで母がヒョウだとライパードで、その逆はレオポン。さらに父がロバで母がウマだとラバで、その逆はケッティとして知られる。

 そのほかにもイヌとシカのハイブリッドではないかと言われるイヌシカや、イヌとイノシシのハイブリッドではないかと言われるイヌイノシシなど、想像を超えるハイブリッド生物の目撃情報が多数ある。「ハイブリッド ウルフ ジャパン」の代表は「とにかくオオカミ犬は警戒心が強い。物珍しさで多くの人が集まってしまうと、捕獲はかなり難しくなる。そっと見守ってほしい」と話すが、果たしてどうなるか――。

【いまも残るオオカミ信仰】

 1905年に奈良県東吉野村で捕獲された個体を最後に、ニホンオオカミは絶滅したとされているが、畑を荒らすイノシシやシカを追い払う益獣として、「オオカミ信仰」が残る東京西部の奥多摩地域には、今でもニホンオオカミが生存していると信じる人たちは少なくない。

 実際に「NPO法人ニホンオオカミを探す会」は、奥多摩地域で撮影されたニホンオオカミとされる写真を公開している。過去にはテレビも奥多摩でニホンオオカミを探して特集番組を組んだほどだ。

 しかし、ある専門家は「ひとつの動物が絶滅せずに生存し続けるには一定の個体数が必要になる。その点からニホンオオカミが絶滅を免れて生存しているとは思えない」と否定的だ。

 一方で、「野犬と化したイエイヌとの交雑によって生まれたオオカミ犬が、細々と何世代も生き残り続けている可能性は100%否定できない」と指摘する。

 ニホンオオカミの遺伝子を受け継ぐ子孫が野生に生息しているかもしれないのはロマンがあるが、今回、南房総市で脱走したのは飼育下にあったオオカミ犬だ。飼い主の元に戻らなくてはならない。