エンゼルスの大谷翔平投手(27)は15日に帰国後初会見をすがすがしい表情で行った。日本全国が発言に注目した中、米メディアの関心は早くも去就に向けられている。FAとなる2023年オフの大争奪戦は確実。今オフ中の契約更新を予想する声もあるが、今季の二刀流大ブレークによる市場価値の高騰でエンゼルス側が条件提示に苦慮しているとの情報も飛び交う。一方、そのスキを狙ってヤンキースとドジャースの「金満2球団」が虎視眈々。何とドジャースはマドン監督とのダブル強奪を狙っているという。仁義なき長期戦の火ぶたが切られた――。

 終始穏やかな表情で本音をさらけ出した。この日、東京都内の日本プレスセンターで帰国後初会見に臨んだ大谷は今季を振り返る中で「この1年で落ち込んだりしたことはあったのか」との問いに対し「今年の最後の方なんかはやっぱりメジャーに行ってからも一番、精神的に(きつかった上に)チームの勝ちもついてこないですし、ポストシーズンでのその先も見えてこない戦いが多かった。精神的にきつい場面が多かったので、もちろん落ち込んだ」と打ち明けた。

 それでも「そうやってメジャーリーグは毎日毎日連戦があって、良かった、悪かったという結果が出てくる。今日は悪かった、良かったというのが出てくるのはすごい幸せなことじゃないかと思っている。そういう普通の生活では味わえない経験を味わわせてもらっているのはすごくうれしいこと。試合に出るからこそ、そういうことがある。落ち込むことも含め、いい1年だったと思っている」とも続け、大谷らしくポジティブな考え方で締めた。

 しかし、これらのコメントで思い起こされるのは9月26日(現地時間)のマリナーズ戦後の「勝ちたい発言」だ。「もちろん、ファンの人も好きですし、球団自体の雰囲気も好き。ただそれ以上に勝ちたいという気持ちのほうが強いですし、プレーヤーとしてはその方が正しい」と口にして大騒動になった。

 今季の大谷は投打二刀流で日米通じてシーズンを初完走。文句なしの数字を記録したが、対照的にチームは77勝85敗でア・リーグ西地区4位に沈み、7年連続でポストシーズン進出を逃した。MLB関係者の間では「このままエンゼルスの低迷が続けば他球団移籍も辞さないのではないか」との見方が根強い。

 もちろん、エンゼルス側はミナシアンGMを筆頭に大谷の引き留めに全力を尽くす方針だ。ただ、現状でも米メディアが「最低10年3億ドル(約342億4000万円)を下回ることはない」と断じるなど新契約が超破格となることは確実だ。

 さらに、チーム再建にも疑問符がつく。ぜいたく税の支払いを一貫して容認しないモレノ・オーナーの下で今オフの最重要課題である先発投手の補強も難航が予想される。

「FAで超大物のバーランダー(アストロズ)やシャーザー(ドジャース)をエンゼルスが獲得するかもしれないという予想もあるが、それは厳しいだろう。彼らが望む破格の大型契約を提示することができない。FAの守護神イグレシアスが退団となればブルペンは壊滅。打線も(長期離脱した)トラウト、レンドン、アップトンがどこまで戦力になれるか未知数。来季も苦戦しそうだ」(ア・リーグ球団関係者)

 そんな中、大谷獲得へゆっくりと歩を進めているのがヤンキース、ドジャースの2球団とみられている。ヤンキースはキャッシュマンGM、今オフに3年契約を新たに結び直したブーン監督がともに今季のヤンキー・スタジアムで2戦3発を叩き出した大谷の長打力にホレ込んでいるともっぱらで、NYメディアからも「大谷が23年オフにFAになるならば確実に動く」との予想が根強い。

 エンゼルスと同じロサンゼルスを拠点とするドジャースは秘策を用意しているという。「ドジャースはワールドシリーズ進出を逃し、2年連続世界一は果たせなかった。来季契約最終年のロバーツ監督の去就は不透明な一方で、実は同様に来オフに契約が切れるエンゼルスのマドン監督を招へいするプランも浮上している。これは二刀流の起用法を知る指揮官を呼び寄せることで同時に大谷獲得を進めようとしている布石なのではないかとの見方もある」(前出の関係者)

 さらに今オフ、MLBと選手会がユニバーサルDH(両リーグDH制)を協議する予定。来季から採用されれば、大谷は代打待機が常だったナ・リーグ本拠地でもDHでスタメン出場が可能だ。ナ・リーグ球団も選択肢になる。

 エンゼルスはどこまで大谷に誠意を示すことができるか。失敗すればヤンキース、ドジャースを軸に空前の争奪戦は必至だ。