パナソニック・片山勢三 ドカベン2世が高3の夏に流した涙のワケ

2019年11月30日 11時00分

まだプロはあきらめていない片山

【気になるあの人を追跡調査!野球探偵の備忘録(97)】2013年夏の全国高校野球選手権福岡大会。“ぽっちゃり体形”の公立の4番が劇的な場外逆転サヨナラ3ランを放った動画は瞬く間に拡散され、地方大会ながら大きな注目を集めた。今秋、ドラフト上位候補として6年ぶりに名前が挙がりながら指名漏れの屈辱を味わった「ドカベン2世」こと門司学園・片山勢三が、高校時代に流した涙のワケと6年間の成長の足跡をたどった。

「もとはチビだったんですよ。高校時代に監督のツテで元祖ドカベンの香川さんにもお会いしましたし、ホームランバッターにあこがれて、とにかく体を大きくしようと。実家が農家だったんで、米には困らなかった」

 朝、通学バスの車内で米3合分のおにぎりをたいらげ、授業が始まる前にもう1合。昼は4合入り“バケツ弁当”をかきこんだ。高校入学時に78キロだった体重は3年間で15キロ増。大学時代でさらに15キロ増え、一時は118キロにも達した。

 体形の変化につれ本塁打も増えたが、一番記憶に残る一発が高3夏のサヨナラ3ラン。ダイヤモンドを一周しながら、人目をはばからずに号泣した。

「当時は自分一人で野球をやってる感じで、自分が打てば勝てる、打てなきゃ負けるというチームだった。オレが打てば勝てる、打てなかったら負けると割り切っていたので、緊張はなかった。あの時の涙には勝ったうれしさだけじゃなく、もう少し別の理由があるんです」

 前年、新チームの主将に指名されたが、門司学園は多くが国公立大へ進む進学校。野球に対する周囲との温度差に日々思い悩んだ。

「主将としてチームをまとめられなくて、バラバラになってしまった。野球じゃなく、勉強をしに来ている人の方が多い学校。その中で自分は全然勉強ができなくて、野球野球という感じで。価値観の違いからケンカも数えきれないくらいしたし、仲間もけっこう失いました」

 チームは秋の大会を勝ち上がり、21世紀枠の候補にも挙がったものの、センバツは落選。野球部には無力感が立ち込めていた。それでも最後の夏、片山は2回戦で2ラン、4回戦でも満塁弾と孤軍奮闘。主将の姿に徐々にわだかまりも消え、チームがひとつになって準々決勝・福工大城東戦の日を迎えた。

 9回、0―5。絶望的な点差にも、ベンチにあきらめの色はなかった。しぶとくつないで3点を返し、なおも二死二、三塁で4番・片山。土壇場で放った打球は、一瞬で左翼スタンド後方の林へと消えた。

「あの試合では仲間が自分に回せと言ってくれて。いろんなことがあったぶん、こみ上げてきてしまった。あの一打があったから、高校野球をいい形で終われたと思う」

 九州共立大でも主将を務め、4年秋には神宮大会出場。大会タイ記録の1試合2本塁打もマークしたが、自分の実力に自信が持てず、プロ志望届を出すことなく社会人のパナソニック行きを決めた。指名が解禁となった今年、ドラフト上位候補に挙げられながらもまさかの指名漏れ。悔しさを感じつつ、自身ではその原因をこう分析する。

「守備や走塁の面ももちろんですが、一番は自己中心的なバッティングだと思うんです。自分が決めてやるという思いが強すぎて、チームバッティングというものをしてこなかった。仲間を信じてチームの勝ちを第一に考える、その先の結果としてプロがある。社会人に来て、そう考えられるようになりました」

 仲間とぶつかり、主将としてチームを引っ張った夏から6年。“ドカベン2世”は次のドラフトを目指し、まだまだ学びの途中だ。

 ☆かたやま・せいぞう 1995年7月9日生まれ、福岡県北九州市出身。小学校3年のとき「田原ウィンズ」でソフトボールを始める。門司学園中では軟式野球部に所属。門司学園高では1年秋から4番、2年秋から主将を務め、2年秋に県準V、3年夏に県4強。高校通算32本塁打、甲子園出場はなし。九州共立大では2年春から4番、4年時には主将を務め、2年秋に打点王、3年春と4年春に本塁打王。4年秋には神宮大会で8強進出。2018年から社会人野球の強豪、パナソニックでプレーを続ける。176センチ、108キロ。右投げ右打ち。