日本には古くから人面を持つ牛の妖怪「件(くだん)」の話がある。この妖怪が生まれると大きな厄災、天変地異や流行病などが起きると言われているのだ。件は人語を話し、厄災を予言すると死ぬという伝承もある。

 こういった未確認生物、幻獣、妖怪の類いは「予言獣」とも言い、他には巨大な人魚の形をした「神社姫」、半人半魚の「アマビエ」などがいる。

 件は実際に1836年の「天保の大飢饉」や1923年の「関東大震災」の際に現れたという伝承がある。今回は実際に予言を的中させたとされている、件の新聞記事を元に紹介しよう。

 この写真は子牛の体に白い人間らしき顔面がベッタリと張り付いたもので、一見して不気味なものである。言い伝えにある件の容姿と不気味なオーラ、それを持ち合わせているように感じるのではないだろうか。

 これは長崎県の農家で生まれたという件の剥製の写真で、明治42(1909)年に「名古屋新聞」で紹介されたものと伝わっている。

 記事によると、明治37年に生まれ、生後31日目に「日本は露西亜(ロシア)と戦争をする」と、同年に開戦した日露戦争を予言して死んでいったというのだ。

 その後、剥製にされて、長崎の八尋博物館に陳列されたとの記述があるのだが、博物館の閉鎖とともに消失しているようで、現存していない。もちろん、どこかに保管されているのかもしれない。

 写真からこの剥製の真偽は断定できないが、作り物の可能性がないわけではない。もしフェイクミイラだと仮定すれば、この異様な容姿、鬼気迫るような表情は製作者の情念が込められているように感じる。世相や時流を読んだ製作者が何かを訴えるために作ったとは考えられないだろうか。

 実際に件そのものをただの創作物と片付けるよりも、その正体は奇形で生まれた子牛だったのではないかという説もある。件自体は「普通の牛から生まれてくる」という性質を持ち、奇形の子牛も短命であることが多く、符合する。

 気味が悪く印象も強いために奇形の子牛が人々の記憶に残り、その年に起きた不幸な出来事と結びつけて考えたために「件伝説」の下地が生み出された。それが広まっていったのではないかと考えられている。