“ただの箱”の先に未来がある――。猫の爪研ぎ、ベッド、ハンガー…。段ボールの可能性を広げ、世の中を驚かせてきたのが大国段ボール工業(福岡県行橋市)だ。リーマン・ショックを逆境の契機とし、「お金がないなら知恵を出す」と挑戦を続け、グッドデザイン賞を次々と受賞。物流の脇役を主役級に変えた“発想の職人集団”の歩みをたどった。

福岡・行橋市に本社を構える大国段ボール工業
福岡・行橋市に本社を構える大国段ボール工業

 大国段ボール工業の歴史は戦後にさかのぼる。創業者は現会長・寺澤一光氏の父・喜代治さんで、大阪市浪速区大国町で古紙を回収・再生し、箱を仕立てる仕事を始めた。物資が乏しい時代、段ボールは生活を支える必需品だった。昭和37年に社名を「大国段ボール工業」と改め、屋号は創業地の町名に由来する。工場は北九州市を経て行橋市へ移転し、現在は約30人の従業員が量産から特注まで多様な製品を生み出している。

 寺澤会長は大学卒業後、段ボールシート会社で修業を積み、30歳で家業に戻った。しかし、バブル崩壊後は受注量が激減した。それでも「依頼を断らない」姿勢で顧客の声に応え続けた。ホースの緩衝材を段ボールで作ってほしいという要望には、2か月の試行錯誤を経て三角形構造を考案。「徹夜続きでしたが、コストを3分の1に抑えられた時は胸が熱くなった」と振り返る。

 転機となったのは2008年のリーマン・ショックだ。法人需要の落ち込みを目の当たりにし、「このままでは未来がない」と危機感を募らせた寺澤会長は、消費者向け商品に挑んだ。猫が段ボールを好むと聞き、強度とデザインを追求したタワー型爪研ぎ「スヌーズ」を開発。13年にグッドデザイン賞を受賞すると、口コミやネット投稿を通じて評判が広がり、全国から注文が相次いだ。「自分の目指した『段ボールはカッコいい』が形になった瞬間でした」。累計販売は1万個を超え、現在は約30種類に広がる主力製品に育っている。

2013年にグッドデザイン賞を受賞したキャットタワー型爪とぎ「スヌーズ」
2013年にグッドデザイン賞を受賞したキャットタワー型爪とぎ「スヌーズ」

 その後も挑戦は止まらない。災害用段ボールベッドは「女性でも2分で組み立てられる」と簡便さが評価され、避難所での導入が進む。福岡県の依頼で誕生した段ボール製ハンガーは、プラスチック削減の潮流に合致し、クリーニング業界で採用が始まった。「最初はどう作ればいいか全く分からなかった。でも無理難題に応えるのがウチの流儀です」と寺澤会長。ロッキングチェアやアニマルカレンダーなど遊び心のある商品も次々と生まれ、取得特許は20件以上に上る。

 新たな発想は外部の知恵とも交わる。大学教授や学生が訪れ、課題として考案したデザインを商品化することもある。「学生の名前を出せば励みになるし、こちらも新しい刺激を得られる。お互いにウィンウィンです」と寺澤会長。段ボールの「弱くて地味」という固定観念を覆し、子供たちの純粋な感性をヒントに「楽しい素材」へと変えてきた。

災害用段ボールベッド(左)とロッキングポニーボード(同社提供)
災害用段ボールベッド(左)とロッキングポニーボード(同社提供)

 現在は長男・洸将氏に社長職を託し、自身は会長として開発に関わり続ける。「常に挑戦し、相手の想像を超えるものを作る。喜んでもらえれば必ず道は開ける。諦めなければ次につながる」。72歳となった今も、その挑戦心は少しも色あせていない。

4つのグッドデザイン賞のほか特許も多数保有している
4つのグッドデザイン賞のほか特許も多数保有している