“防災トイレ”は一本やりではなく三本の矢のように組み合わせが肝要です――。今回は流通ウォッチャーの渡辺広明氏(58)とともに次世代型仮設トイレの普及に取り組む尾張伸行氏を徹底取材。仮設トイレの新たな地平、世界進出の可能性が見えてきた。

 大規模災害が発生した時のために“防災トイレ”の設置が各自治体で進められている。

 きっかけは2024年1月に起きた能登半島地震だ。24年度補正予算で新設された「新しい地方経済・生活環境創生交付金 地域防災緊急整備型」は自治体が避難所の生活環境改善や防災・減災に必要な車両や資機材を整備するのに利用可能で、補助率は2分の1。上限額は都道府県6000万円、指定都市・中核市・中枢中核都市5000万円、市区町村4000万円と定められており、25年度予算では747団体に1215億円の国費が交付される見通しだ。

 だが、一口に“防災トイレ”といっても災害用トイレにはかなりの種類がある。

 発災直後に断水した場合は「携帯トイレ」や「簡易トイレ」。専用のマンホールに組み立てれば利用可能な「マンホールトイレ」や組み立て型の「仮設トイレ」がその後に続く。快適さで上回る「ボックス型仮設トイレ」や「トイレカー」が被災地で使えるようになるまでに早くて5~7日、遅いとひと月以上を要する。

国土交通省「マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン2021年版」から
国土交通省「マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン2021年版」から

 150基以上の「ボックス型仮設トイレ」を能登半島の被災地へ無償提供したインプルーブエナジー株式会社の尾張伸行社長はこう証言する。

「能登半島地震の災害関連死(※1)は666人になる見通しです。私も現地入りしましたが、下水管がダメになっていたところではマンホールトイレがまったく使えず、便の回収が追いつかないため使用禁止になっている仮設トイレも多かった。こうした課題を何とか解決したいと思って次世代型の仮設トイレの開発に取り組みました」

におわない仮設トイレを能登半島に無償提供した尾張社長
におわない仮設トイレを能登半島に無償提供した尾張社長

 もともと人材派遣業を営んでいた尾張社長は工事現場に設置される仮設トイレにも問題を感じていた。

「国交省が2016年、建設現場を男女ともに働きやすい環境にしようと仮設トイレに“快適トイレ”という基準を設けました。これだと洋式が標準で若い子もストレスなく使えます。とはいえ、この補助金にも上限はあるし、ゼネコンの下請けで作業する人間がみんな“快適トイレ”を使えるわけじゃない。それなら自分たちで臭わない仮設トイレを開発してみようと!」

 悪臭をゼロにする秘密が、イグ・ノーベル賞受賞者でもある廣瀬幸雄金沢大名誉教授と共同開発した無臭化装置だ。便槽タンク内に低濃度オゾンで菌を分解、室内をマイナスイオンで殺菌と2つの技術を組み合わせたもので臭気測定でも臭いゼロを記録。24年に特許を取得した。ちなみに装置の駆動には電気が必要だが、災害時は電気の復旧がもっとも早いので大きな問題にはならない。

 もちろん自動水洗でボックス内には自動手洗い場も標準装備。従来の設計を見直し、トラックでの輸送がしやすいサイズに設計を見直しながら便槽タンクの容量を450リットルにアップした。

「流すための水が1回150ccで、大なら1回200グラム、小なら200~400ミリリットル。1回500ミリリットルとしてざっと計算しても900回はお使いいただけますね」(尾張社長)

 流通ウォッチャーの渡辺広明氏は平常時でも災害時でも同じように使える「常設型スイッチング式無臭トイレ」を高く評価した。

「普段は下水管につないでおいて、災害時にくみ取りになるのはいい案だと思う。例えば公園にトイレが複数ある場合、すべてがピカピカの陶器である必要はないでしょう? 災害専用のトイレと利用機会が限定されると保管場所の問題も出てくるけど、これなら食料品のローリングストック(※2)のように普段通りが確保されます」

仮設トイレの内観。かつてのイメージを一新するほどキレイでにおわなくなっている
仮設トイレの内観。かつてのイメージを一新するほどキレイでにおわなくなっている

 普及の課題となるのがコスト面だ。従来の仮設トイレの相場が1基30万~40万円であるのに対し、インプルーブエナジー社の「ZoneZeroシリーズ」は100万円を超えるという。

「コンビニもそうだけど、トイレは無料で使えて当たり前という感覚を改める必要があるでしょうね。僕の計算ではコンビニのトイレで清掃の人件費とか考えたらコストは1回約50円。となるとFCオーナーは200円くらい買い物してもらってようやくトントンです。こうした優れた仮設トイレの単価を下げるには数を売るしかないので、国内に限らず世界にジャパンクオリティーとして売っていくべきだと思います」(渡辺氏)

 温水洗浄便座「ウォシュレット」で世界を感動させたTOTOは米国事業が順調で、30年度までに海外売上比率を50%まで伸ばすことを目標にしている。ニッポンの仮設トイレも世界に羽ばたけるのか、今後に注目だ。

※1=避難生活の負担、避難中の事故、持病の悪化、精神的ストレスなど、災害に起因する間接的な原因で引き起こされる死のこと
※2=食べ慣れた食品を普段より多めに買い置きし、消費した分を買い足すことで常に一定量の食品を家庭で備蓄すること

☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「Live News α」コメンテーター。Tokyofm「ビジトピ」パーソナリティー。