〝りかしん〟の旅路が幕開けだ。フィギュアスケート女子で2018年グランプリ(GP)ファイナル覇者の紀平梨花(23=トヨタ自動車)が29日、アイスダンスへの挑戦を電撃表明した。アイスダンサーとして今年2月のアジア大会で銅メダルの西山真瑚(23=オリエンタルバイオ)とカップルを結成し、26年ミラノ・コルティナ五輪を目指す意向だ。今後の紀平はシングルとの二刀流で競技を続ける方針だが、なぜ新たな挑戦を決断したのか。その裏には深い縁と強い覚悟があった。

 紀平はミラノ・コルティナ五輪シーズンの今季、全日本選手権(12月、東京)の予選会となる中部選手権(9月、愛知)を欠場。2022年北京五輪シーズンに故障した右足首が完治しておらず、シングルでのミラノ・コルティナ五輪出場が消滅した。しかし、ともにカナダを拠点にする西山からトライアウトの誘いを受け、アイスダンスの世界に足を踏み入れた。

 現在の紀平はブライアン・オーサー氏に指導を仰いでいる。西山もシングル時代に指導を受けるなど、かねて親交があった。2人を知る関係者は「種目は違うけど、一緒にリンクで滑ることはあったし、普通に話すような仲。知らない人同士が組んでいるわけではないし、お互いリスペクトを持ちながら接しているように感じる」と相性の良さを指摘した。

 男女2人1組で滑るアイスダンスはジャンプがなく、表現を軸として極める種目。ケガの影響でジャンプを満足に跳べない紀平にとっては好都合だ。幼少期からバレエに励み、現在も表現や体力を磨く練習の一環としてダンスを取り入れている。「趣味みたいな感じで、スケート以外だとダンスが一番楽しい」と話すほどで、高難度のジャンプだけでなく表現の部分も「いつも細かいところまで意識してきた」と強いこだわりを持つ。

 さらに来季以降の復帰を目指すシングルにも、アイスダンスの参戦がメリットになりそうだ。紀平はフランス・アルプス地域で開催される30年の五輪シーズンまで現役を続ける方針で、あるフィギュア関係者は「ジャンプがないぶん、スケーティング技術や表現の面に注力できるので、質の向上につながると思う。それにカップルの息の合った演技が求められるので、新しい魅力や可能性を感じることができるのでは」と分析した。

 モチベーションの面でも効果は抜群だ。アイスダンスの日本勢は〝うたまさ〟こと吉田唄菜、森田真沙也組(ともに木下アカデミー)が9月の最終予選で個人戦の国・地域別出場枠を確保できなかった。ただ、日本が団体戦の出場を決めれば、アイスダンスの日本勢も五輪の舞台に立つことができる。29日の会見で西山は「(五輪に)行きたくないかと言われたら、もちろん行きたい」と控えめに語るも、胸の内では並々ならぬ思いを抱いている。同関係者は「表向きにはあまり言わなかったけど、2人とも五輪に行きたい思いは強い。特に今季の紀平さんはアイスダンスに懸けている」と代弁した。

 日本が団体戦に出場する場合、選考上は〝うたまさ〟が圧倒的に優位な状況だ。それでも「可能性がある限りは、どのチャンスもつかめるように努力はしていきたい」と紀平は強い決意。わずかな光を信じ、己が選んだ道を突き進む。

【早くも才能の片りん】〝りかしん〟の初陣は西日本選手権(11月1~3日、滋賀)と兼ねて行われる全日本選手権のアイスダンス予選会となる。

 今季はリズムダンスで「Mambo No.5」、フリーダンスでは「もののけ姫」を演じる予定。紀平は「これまでのシングルの人生からは考えてもなかった形だけど、ワクワクするし、大きなチャレンジになる。全力で頑張っていきたい」と意気込んだ。

 未知なるチャレンジとなるが、アイスダンス経験者の西山は「トライアウトの様子を見てくれていたコーチたちも含めて、とにかく習得が早いと言っていた。スケートのベースはものすごく高いものを持っているし、これからどんどんいろんな新しいことをすぐ覚えちゃうんじゃないかな」と大絶賛。アイスダンスでも早くも才能の片鱗を見せているようだ。