オカルト評論家・山口敏太郎氏が都市伝説の妖怪、学校の怪談、心霊スポットに現れる妖怪化した幽霊など、現代人が目撃した怪異を記し、妖怪絵師・増田よしはる氏の挿絵とともに現代の“百鬼夜行絵巻”を作り上げている。第240回は「黒いマタギ」だ。
 
 ある山に伝わる怪しい存在が「黒いマタギ」である。その山では、お盆の時期を禁猟として、入山を禁止していた。ベテランのマタギたちは、疑問に思うことなく、やみくもにその戒めを守ってきた。

 この時期に入山すると、目の前に黒ずくめの猟師が現れ、怪異をなすという。そして、命を奪われたマタギの体の上には、マタギ笛が置かれているという。

 この長く続いた因習に嫌悪感を感じた若いマタギが、ある年のお盆に入山した。結局、数日たっても若いマタギは下山せず、捜索隊が出された。すると、遺体となった若いマタギが発見された。そしてその体の上には、マタギ笛が置かれていた。

 この黒いマタギとは何者であろうか。通常の人間であることは考えられない。山のおきてを破った者に対して、“山の神”が制裁を加えたのであろうか。まず黒い色というのは、死を連想させる。次に遺体の上に置かれたマタギ笛というのが“神の警告”を意味しているのではなかろうか。

 仏教でいうところの殺生を犯している職業である海の漁師も、お盆の時期は禁漁期間である。この時期に船を出すと、「海坊主」「船幽霊」「海座頭」が現れて、人間たちをひどく脅かすと言われた。

 なお、マタギの間には、不思議な話が残されている。品物を紛失した時に、山の神に見えるように男性器を露出させ、おしっこをすると失せ物が見つかると言われた。山の神はあまり器量がよくなくて、女性に冷たく、男性に優しいとされている。