レスリングの世界選手権が9月、セルビア・ベオグラードで行われる。メダルを獲得すれば2024年パリ五輪代表に決まる運命の舞台で、注目の逸材が女子53キロ級の藤波朱理(19=日体大)だ。中学2年から負けなしで目下122連勝中。海外で「ワンダー・ガール」と呼ばれる新星を本紙が直撃し、驚異の高速タックルにまつわる意外な事実や、姉と慕う東京五輪柔道女子52キロ級金メダルの阿部詩(23=パーク24)への思いなどを聞いた。

53キロ級を制した藤波はガッツポーズ
53キロ級を制した藤波はガッツポーズ

 2021年、高校3年時に初出場した世界選手権で、全試合で相手に1ポイントも与えず金メダルを獲得する衝撃の世界デビューを果たした。6月の明治杯全日本選抜選手権では、東京五輪金メダルの志土地真優(ジェイテクト)も撃破。世界レスリング連合(UWW)公式サイトで記事を執筆するビネイ・シワチ氏は、その圧倒的な強さから藤波を「ワンダー・ガール」と命名した。

 藤波 ワンダー・ガール! うれしいですね。7歳上の兄(勇飛=17年世界選手権フリー70キロ級銅メダル)の姿を見てから世界で活躍することに憧れています。世界選手権は最高です。演出とかも違うし、雰囲気も最高。昨年出られなかった分、ケガに気をつけて思う存分楽しみたいです。

 2連覇を目指した昨年大会は直前に左足リスフラン靱帯を痛め欠場した。しかし、今後に向け重要な学びを得た。

 藤波 去年は焦って追い込みすぎてしまったところがあった。その経験を無駄にしないように、今は「やればいい」ではなく、体の声を聞いて、疲れているなら休む勇気も必要なんだと思っています。心配性なので、なかなかその勇気が出てこないですが、周囲の人たちも注意してくれる。「追い込みすぎず追い込む」を意識しています。

 現在は父でコーチの俊一氏と東京で2人暮らし。食事に気を配り、自炊している。

 藤波 前は母にやってもらっていたけれど、今は食事も洗濯も自分で全てやらなくてはいけない状態。人としても成長できているかな、と思っています。

 長い手足を生かし、いつの間にか相手の懐に入り込んで足を取る片足タックルが武器。4月のアジア選手権で連勝記録を119に伸ばし、五輪3連覇の吉田沙保里に並んだ。その後、122に伸ばしている。どうして面白いようにタックルが決まるのか聞いたが、藤波は不思議顔だ。

 藤波 なんでやろ。なんで(相手の足が)取れちゃうんですかね。運動神経、本当に良くないんですよ。走るのは遅いし、短距離とか瞬発力とか、データを取っても全然良くないんです。レスリングのタックルは速いほうですけど、スピードよりタイミング。もしかしたら「レスリングだけに特化したセンス」は、ちょっとだけあるのかなと思います。でもやはり練習で培ったものだと思っています。

 目立つことが大好き。2年前の世界選手権では、優勝後に英語でインタビューに応じて周囲を驚かせた。これにも理由があった。

 藤波 やっぱり少しでも注目されるように。他の日本選手も金メダルを取ると思ったので「お、ちょっと藤波違うな」と言われたいという思いで英語の勉強を始めました。今も自己流ですが、勉強を続けています。

 そんな19歳が憧れ、姉のような存在として目標にしているのが、大学の先輩で東京五輪柔道金メダリストの詩だ。

 藤波 先日も一緒に食事をしてもらって。詩さんの考え方がすごく好きです。ポジティブで元気。ネガティブなことは全然言わない。本当にキラキラしているんですよ。詩さんのようになりたいです。プライベートなことでも気軽に何でも話せて相談できます。

 世界選手権での目標はもちろん金メダル。そして、詩と同じ五輪金メダリストになることが最大の夢だ。

 藤波 五輪で優勝すると、どんな景色が待っているんだろうという思いでワクワクします。それが見られるように頑張りたい。一瞬一瞬を楽しんで、自分のレスリング、いいレスリングを見る人に期待してもらいたいと思います。

 ☆ふじなみ・あかり 2003年11月11日生まれ。三重・四日市市出身。1988年ソウル五輪代表候補だった父・俊一氏の影響で4歳でレスリングを始める。20年、いなべ総合学園高2年時に全日本選手権で初出場優勝。21年の世界選手権でも初出場で金メダルを獲得した。中学2年の17年9月から公式戦で122連勝中。164センチ。