【取材の裏側 現場ノート】新日本プロレスの「ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア(BOSJ)」は、連日熱戦が展開されている。
ジュニアの祭典と呼ばれるリーグ戦は、昨年までコロナ禍で外国人選手の招聘が困難になった影響もあり、年末の「ワールドタッグリーグ」と同時開催されていた。
だが、今年は3年ぶりの単独開催で恒例の5月に開幕。国際色豊かな全20選手がエントリーされた。コロナ禍におけるイベントは、再開後の無観客開催から有観客へと移行し、現在は観客入場制限がほぼ撤廃されつつある。
海外の渡航制限も緩和され、2年以上の時を経てかつての日常が徐々に戻ってきた。残された「最後のピース」は、ファンからの歓声ではないだろうか。
あらゆるスポーツに共通することだとは思うが、とりわけプロレス会場におけるファンの歓声は大きな意味を持つ。チャント(掛け声)、ブーイング、3カウントの大合唱…。観客の喜怒哀楽、そして驚きが試合を彩り、熱狂的な空間が生まれるのだ。
BOSJで3連覇を狙う高橋ヒロムは、連覇した近2年の大会で唯一悔やまれるのが無歓声の会場だったことだと明かす。取材の際に「あれだけの拍手で応援してもらってありがたいですけど、正直、そろそろ我慢の限界に近いレベルで欲してしまってますよね。いま一番欲しいものは、間違いなく歓声ですよ」と本音をのぞかせていた。
また、米国をはじめとした海外では、声援が解禁されて久しい。米AEWから参戦中のウィーラー・ユウタによれば、大物レスラーのブライアン・ダニエルソンも声援自粛が解かれるまでは来日に難色を示しているという。レスラーにとっても、歓声がいかに大切なものかが分かる。
そんな中でサッカーのJリーグは、いち早く声出し応援を段階的に解禁すると発表した。マスク着用のもと指定されたエリア・席で距離を保つことが条件となり、6月から試みがスタートする。
では、国内のプロレス会場における「声出し」解禁の見通しはどうなっているのか。新日本、女子プロレス「スターダム」の親会社であるブシロードの木谷高明会長は「スポーツもそうだし、ライブで歓声はつきもの。観客と一体になってつくり上げて楽しむものですから、絶対に必要ですよ。声出しはやるべきだと思いますよ。海外がやってるんですから。マスクしてたら声出してもいいんじゃないですかね?」と明言した。
仮に声出しエリアを設ける場合、必然的に観客の人数制限が発生するため、小・中規模の会場での導入は難しいと見られる。また会場によって規定も異なるため、細かい調整が必要だ。
だが、木谷会長は「会場全体をちょっと空けていくのか、エリアを空けていくのかは分からないけど、もし間に合うのであれば新日本は今度の日本武道館(6月3日)でやってもいいんじゃないかと思いますね。可能だったらですけど」と、早急に導入を検討する意向だという。
すっかり定着した拍手による応援は、誰しもが我慢を強いられるコロナ禍の中で生み出された尊いものだ。とはいえ、大声で声援を送ることで生まれるファンと選手の一体感、思いの共有は、スポーツ観戦における最大の醍醐味と言っても過言ではない。
一人の担当記者としても、プロレスの会場にかつての〝圧倒的熱量〟が一日も早く戻って来ることを願わずにいられない。
(プロレス担当・岡本佑介)